| 瑞泉寺・山門 |
先に、瑞泉寺の建物などをみてきましたが、それらに施されている「井波彫刻」をみていきます。
1. 山門の彫刻
井波彫刻の原点となる傑作が施されている。
(1)雲水一疋龍
正面の唐狭間(からさま:梁の上の装飾部分)に彫られた、立体感あふれる巨大な龍の彫刻。京都の本願寺お抱えの名工・前川三四郎の作で、1本のケヤキの丸太から、何層にも重なる立体的な透かし彫りで彫り出されている。
1879年 (明治12年)の瑞泉寺大火の際、「この龍が近くの松の木に登り、口から水を吐いて山門を火災から守った」という「消火の龍」の伝説が残されている。火難除け・守護の象徴として今も畏敬を集めている。
(2)八仙人(はっせんにん)
山門の内部上部、蟇股に施された彫刻。中国の故事に登場する、それぞれ異なる不思議な法力を持った8人の仙人(琴高、伯牙、鉄拐、蝦蟇、呂洞賓、簫基、張果、平黄初)の姿が生き生きと描写されている。
前川三四郎に弟子入りした地元の井波彫刻師たちが手がけた。
中国において八仙人は「不老不死」「招福」「厄除け」の象徴であり、寺院を訪れる人々に仏教の普遍的なおめでたさや吉祥をもたらす意味が込められている。
(3)唐戸の上部と中央
唐戸の上部には「花狭間(はなざま)」の格子窓がつき、中央の羽目板には牡丹などの図案が飾り彫りされている。
これら山門の建具や周囲の細工は、本山から引き継いで山門建築の総棟梁を務めた井波大工の巨匠・二代目 松井角平の一門や、井波の始祖とされる彫刻師・番匠屋九代七左衛門(北村七左衛門)らの系統によって仕上げられた。
(4)根巻き金具
松葉下の根元に取り付けられている金具。「唐獅子」の浮き彫り(彫金)が施されている。これは、高岡の伝統的な鋳物師によって作られ、寄進されたものである。
2.式台門の彫刻
(1)獅子の子落とし
式台門(勅使門・菊の門)の両脇板に施されている、井波彫刻の最高傑作の一つとされる「獅子の子落とし」。我が子を深い谷へ突き落とし、自力で這い上がってきた強い子だけを育てるという中国の故事を、圧倒的な立体感と躍動感で表現している。
井波彫刻の祖とされる初代大工・番匠屋九代七左衛門(田村七左衛門)の作(1792年再建時)。京都東本願寺の御用彫刻師・前川三四郎から直々に技法を伝授された、井波大工第1号の彫刻作品として知られている。
(2)獏
門扉の上の蟇股(かえるまた)には、人々の悪夢を食べて吉夢に変えるとされる中国の想像上の聖獣「獏(ばく)」が、ユーモラスかつ緻密に表現されている。番匠屋九代目・北村七左衛門の作。
(3)松に鶴
虹梁(こうりょう)と呼ばれる梁の部分には、おめでたい吉祥図案である「松と鶴」が美しい構図で彫り込まれている。番匠屋九代目・北村七左衛門の作。
3. 本堂の彫刻
明治18年(1885年)に再建された、北陸地方の真宗木造建築としては最大級を誇る壮大な伽藍である。
(1)欄間や梁の彫刻、隅木の龍
本堂の外周や内部には、4代目松井角平恒広ら井波の職人たちによる重厚な彫刻が各所に配置されている。屋根の隅木の下を支えるように彫られた「隅木の龍」や、堂内欄間の精密な木彫が施されている。
本堂の彫刻は、お浄土の荘厳さをこの世に表現している。また、随所に配された龍や木鼻の獣(獅子や獏など)は、「仏法を守護する」「災い(火災や邪気)を寄せ付けない」という強力な魔除け・結界の意味を持っている。
(2)本堂正面の唐狭間(欄間)彫刻
極楽浄土に住み、比べようのない美声で鳴くという仏教上の想像上の生物「迦陵頻伽(かりょうびんが)」の姿が彫られている。上半身が人間で下半身が鳥の姿をしており、お浄土の美しさを象徴している。
(3)向拝の蟇股(かえるまた)彫刻
迫力のある「龍」の立体彫刻など、計6個が取り付けられている。
(4)木鼻(きばな)の彫刻
唐獅子の木鼻は、1885年(明治18年)に本堂が再建された際に、井波彫刻の名人と称された二代目・岩倉理八によって制作された。ぎょろりとした鋭い目や、美しく波打つような巻き毛の表現など、卓越した超絶技巧である。
4. 太子堂の彫刻
1918年 (大正7年)に、大工134人が7年がかりで再建した、聖徳太子を祀る全国最大の太子堂。井波彫刻の職人たちが流派のプライドをかけて技を競い合った、井波彫刻の最高峰・粋が集まった建物である。
(1)向拝の手挟(たばさみ)彫刻
向拝(建物正面の突き出た庇部分)の屋根を支える「手挟」には、1本のケヤキから約200本のノミを使い分けて削り出された、圧倒的な立体感を持つ透かし彫りが施されている。
緻密な龍の彫刻は、井波彫刻の高い技術力を物語るもの このような彫刻は籠彫り(かごぼり) とも呼ばれる。 5449 9136
豊かな「葡萄(ぶどう)」の葉や実、そして奥には優美な「鳳凰(ほうおう)」などの絵柄が何層にも立体的に彫り込まれている。
桐に鳳凰
瑞獣である鳳凰と、それらが集うとされる桐の木を、何層にも重ねて立体的に彫り上げている。 鳳凰は「優れた君子(聖徳太子)が治める平和な世に現れる」とされる瑞鳥であり、聖徳太子の徳を称えている。
波に龍
激しくうねる波と、その間を獰猛に飛翔する龍の姿が、深く精緻に表現されている。これは、木の塊の中をカゴのようにくり抜いて立体的に仕上げる「籠彫り(かごぼり)」という超絶技巧が使われている。
水波と龍はどちらも「水」にまつわるモチーフであり、度重なる大火に苦しんできた瑞泉寺において、「絶対的な防火・火伏せ」への強い願いが込められている。
隅龍
太子堂の屋根の四隅(柱上から斜めに伸びる隅木の下)を飾る「隅龍(すみりゅう)」と呼ばれる彫刻 9169
(2)木鼻の獏
柱の先端にある「木鼻」には、「獏(ばく)」の木鼻が施されている。 獏は、悪夢を食べ、吉夢や平和を運ぶとされる霊獣である。
(3)蟇股の干支
周囲の蟇股には「龍亀(ろんぐい)」や「獏(ばく)」、「干支」などの動物が、ノミの跡も鮮やかに深く彫り込まれている。
大工や職人の神様として崇められていた聖徳太子への深い信仰と、「井波彫刻の技を未来永劫へ継承する」という職人たちの気迫と誇りが、これらの彫刻に込められている。
5.井戸の建屋:「平成の雲水龍」
山門にある雲水一疋龍の「消火の龍」伝説ゆかりの井戸の建屋に、2015年に施された。
つづいて、瑞泉寺の門前町、「八日町通り」に並ぶ井波彫刻をみていきます。
