2026年5月7日木曜日

東京異空間419:植田正治と家族写真

東京国立近代美術館のコレクション展

東京国立近代美術館のコレクション展のなかに植田正治の写真が展示されていました。また、東京都写真美術館で同じくコレクション展、「Don’t think. Feel.」のなかで「家族写真の歴史民俗学」として、植田の写真などが展示されていました。ちなみに「Don’t think. Feel.」という言葉はブルース・リー の言葉で、「考えるな、感じろ。」ということだそうです。

1.植田正治1913-2000)~東京国立近代美術館のコレクション展から

植田正治は、鳥取県境港市に生まれ、そこを拠点に70年近く活動し、前衛的な演出写真は「植田調」として知られる。とくに鳥取砂丘を舞台にした「砂丘シリーズ」はよく知られている。 鳥取砂丘をメインステージとし、広大な空、砂、地平線を平面的な背景として、家族や地元のモデルを使い、砂丘でまるでオブジェのように配置する、「演出写真」を生み出した。

戦後の写真界では、土門拳による「「絶対非演出・絶対スナップ」が主流であった。これは,、土門の戦時中の「報道写真」への加担に対する深い悔恨と自己批判から、「やらせ」を徹底的に排し、真実の底まで暴くという強い主張であった。

いっぽう植田は、土門のリアリズム論に衝撃を受けたが、「カメラを向けられた被写体が意識する姿こそがリアルである」という独自の結論を持つに到る。植田の「演出写真」は、写真を「現実の記録」ではなく「絵画的な表現」として、より 自由な想像力を写真に持ち込み、「植田調(UEDA-CHO)」と呼 ばれる独自の写真を創り上げた。

植田正治と土門拳は演出/非演出という対極的な作風でありながら、二人は互いの才能を高く評価し合っていた。 

少女四態 1939年

少女四態 1939年


少女たち 1945年頃
少女たち 1945年頃

子狐登場 1948年

カコとミミの世界 1949年

カコ 1949年

カコ 1949年

パパとママと子供たち 1949年

パパとママと子供たち 1949年

風船をもった自画像 1948年頃

ボクのわたしのお母さん 1950年

妻のいる砂丘風景(Ⅱ)1950年頃

妻のいる砂丘風景(Ⅲ)1950年頃

砂丘群像 1949年

砂丘群像 1949年

砂丘群像 1949年

モデルとゲイジュツ寫眞家たち 1949年

砂丘ヌード 1951年

砂丘ヌード 1951年

土門拳と石津良介 1949年

土門拳

砂丘での合同撮影会では、互いにカメラを向け合うなど、手法は違えど作家として認め合う仲であった。


《綴り方・私の家族》『カメラ』アルス1949年9月号


2.家族写真東京都写真美術館のコレクション展から

Don’t think. Feel.(考えるな、感じろ。)」のなかで「家族写真の歴史民俗学」をテーマにした展示がされていた。これは、 川村邦光の著作『家族写真の歴史民俗学』で論じられた家族写真を中心に展示し、19世紀から現代までの家族写真の構図や撮影背景を分析している。

その中で、植田正治や影山光洋などの家族写真を取り上げている。歴史的に見ると、西洋の家族写真は、聖家族を世俗化したいわば「イコン」であり、家父長を中心とした構図になっている。

植田や影山の家族写真を見ると、家父長から夫婦中心、さらに母親中心から子供中心となる日本の家族制度の歴史の片鱗が垣間見えるようだ。

(1)西洋の家族写真

猟銃を持つ夫婦(ダゲレオタイプ)1850年代中頃

手を握る母子(ダゲレオタイプ)1850年代中頃

バートランド・ラッセル一家 1921年頃


(2)植田正治の家族写真
カコとミミ 1949年

カコ 1949年

パパとママと子供たち 1949年


(3)影山光洋の家族写真

影山光洋1907–1981)は、朝日新聞の従軍カメラマンとして戦地を記録し、戦後は自らの家族や街頭風俗を克明に撮り続け、「記録写真の鬼」と称された 。

神宮アパートでの新婚文化生活 1934年

小麦の収穫祝い、家族の肖像 1946年

(4)昭和天皇の家族写真

中でも興味深かったのは、昭和天皇の家族写真の二枚である。どちらも天皇は中央で椅子にどっかりと座り、天皇の近くには男子親王が並び、皇后(女性)の周りに子供たちという構図である。明治期以降、国家は天皇を中心とした巨大な「家」であるとされた。天皇は国家の家長として臣民(国民)を慈しみ、国民は天皇に絶対服従するという関係が形作られたが、そうした「家族国家観」がこうした写真の構図にも表れているようだ。それぞれ1939年、1943年に撮影されたものだが、戦時中に、このような写真が撮られていたのだ。1937年日中戦争、1941年太平洋戦争)

昭和天皇家族写真 1939年

中央に座っているのが昭和天皇。天皇の右隣に立っているセーラー服の少年が皇太子 (現在の上皇明仁親王。その隣が常陸宮(正仁親王)である。女性たちは後ろに位置する。

天皇は右手を椅子の肘の上に置き、左手は膝の上に置いている。右隣の皇太子は左手を天皇の座っている椅子の肘掛けにの上に置いている。手をつなぐことはない。皇位継承の順位が家父長制とともに図像化されている。

昭和天皇家族写真 1943年

1943年の写真では、やはり天皇だけが中央で、豪華な椅子に座っている。いわば「鎮座」している。天皇の右隣には、やはり皇太子が立っている。他の方はほぼ等間隔に律義に立っている。家族的な親密さは見られない。なお、この写真には第二皇子(正仁親王)はいない。

(5)「パパとママとコドモたち」の写真
植田の「パパとママとコドモたち」の写真は、それぞれがほぼ等間隔で並んでいる。左側から植田本人(パパ)・三男・長女・長男・次男・右端が母親(ママ)である。それぞれが思い思いのポーズをとり、独自の領域を示している。

この奇妙なパフォーマンスの写真、もちろん植田によって演出された写真は、天皇の家族写真や家父長制スタイルの写真に対するすぐれてユーモラスなパロディとなっている。

パパとママと子供たち 1949年


(参考):

『家族写真の歴史民俗学』川村邦光 ミネルヴァ書房 2024

東京都写真美術館エントランスのパネル「妻のいる砂丘風景(Ⅲ)」1950年頃


家族写真は、かつては七五三など人生の節目に写真館で撮ってもらうことがありましたが、近年はスナップ写真となり、いまはデジタルで日常の一コマをSNSにアップするなど大きく変化しています。写真から読み取る、家族の歴史をあらためて考える機会となりました。


2026年5月2日土曜日

東京異空間418:虫展@東京都写真美術館

 


東京都写真美術館で開催されている「虫展」を観てきました。この展覧会は、解剖学者で、大の虫好きとしても知られる養老孟司の虫を巡る言葉と、被写体である虫の全てにピントがあう深度合成技法を駆使し、昆虫写真の新たな可能性を切り拓いた小檜山賢二の作品の展覧会です。

東京都写真美術館




1.養老孟司「こたえはぜんぶ、虫にある。」

養老孟司は、ベストセラーとなった「バカの壁」などの著書で知られるが、また虫好きで昆虫標本の膨大なコレクションでもよく知られている。この展示においても、養老の昆虫に関する言葉が軸になっている。養老は、虫について次のような考えを示している。

30億年の生きものの進化の歴史において、直面したあらゆる問題の「解答」が、目の前の虫の「かたち」として存在している。

・虫の構造そのものが、自然が問題を解いた結果である。

虫という極小の存在を通じて、自然の摂理や人間社会のあり方を問い直す視点がある。

こうした考え方を端的に表し言葉が、こたえはぜんぶ、虫にある。」である。





2.小檜山賢二「「なんだ、これは?」

小檜山の写真は、数ミリ~数センチの虫たちをデジタル画像処理技術・深度合成を駆使して、すべての部分に焦点が合った一体の虫として表現する。これを「マイクロプレゼンス」と呼んでいる。そのコンセプトは、「日常的な環境の中に存在する小さなもの、肉眼ではその詳細を知ることが出来ない微細な構造を可視化して、その小さなものの存在を実感させる」というもの。

小さな昆虫を接写レンズを使って撮っても、焦点深度の関係で、一部分しかピントを合わすことが出来ず、その他はピンボケになってしまう。この問題を解決するために、被写体に対し、平均3050,多い時は100枚以上もピントを変えて撮影し、ピントの合ったところだけを、コンピュータ上で合成する。それが、マイクロフォトコラージュという手法である。

触角の先から、胴体、脚の先端の爪まですべてにピントが合っている昆虫写真は、見る者にこの世のものとは思えない不思議な感覚を引き起こす。驚きと不思議に満ちた虫たちの「なんだ、これは?」の世界を提示する。

【プロフィール】
養老孟司(ようろうたけし)
1937
年 神奈川県生まれ。解剖学者、東京大学名誉教授、大の虫好き。
小檜山賢二(こひやまけんじ)
1942
年 東京都生まれ。情報通信研究者、慶應義塾大学名誉教授、マイクロプレゼンス作家。




展示作品は、すべて撮影可でしたマイクロプレゼンスで全てにピントの合った昆虫写真を撮ったこちらの写真のほうがピントが合っていないかも。

フェモラータオオモモブトハムシ


ミドリヨモギハムシ

オオニジハムシ

キンイロネクイハムシ

トゲナガカメノコハムシ

ハリネズミトゲハムシ

バイオリンハムシ

アオマイマイカブリ

シナカブリモドキ

アシナガクラチビゴミムシ

アトモンオオヒゲブトオサムシ

スジバネヒゲブトオサムシ

アオカメノコハムシ

アオカメノコハムシ

キアミメオオカメノコハムシ、ウスモンジガサハムシ、キムツモンオオカメノコハムシ

モンコモリカメノコハムシ、ベニワモンカメノコハムシ、ベニモンオオカメノコハムシ

フゾロイホソヒラタハムシ

キムネカミキリモドキ

パキリンカス・オルビファー

モッコクヒメハマキ

ツバキシギゾウムシ

ロクロクビオトシブミ

サイチョウモドキオサゾウムシ

メダカウシヅラヒゲナガゾウムシ

ミドリシマゾウムシ

ミドリシマゾウムシ

ミドリシマゾウムシ

トゲトゲクロサルゾウムシ

チャケブカゾウムシ

チャイロツルクビオトシブミ

チャイロツルクビオトシブミ

イタヤハマキチョッキリ

ホウセキメカクシクチブトゾウムシ

ホウセキメカクシクチブトゾウムシ

ホウセキメカクシクチブトゾウムシ

ホウセキメカクシクチブトゾウムシ

シェーンヘラーホウセキゾウムシ

リンゴヒゲボソゾウムシ

オオゾウムシ

オオゾウムシ

グラントシロカブト

ヘラクレスオオカブト

スチューベルツヤサイカブト

トビモンエグリトビケラ

マルバネトビケラ

イズミニンギョウトビケラ

ヤマガタトビイロトビケラ

マルバネトビケラ

マルバネトビケラ

マルバネトビケラ

グンジョウオオコブハムシ

グンジョウオオコブハムシ

これらの虫たちは、何でこんな格好をしているのだろう?全く機能的でも、効率的でもない、しかし美しい。神様がおつくりになったとしか思えない。


東京異空間419:植田正治と家族写真

東京国立近代美術館のコレクション展 東京国立近代美術館のコレクション展のなかに植田正治の写真が展示されていました。また、東京都写真美術館で同じくコレクション展、「 Don’t think. Feel. 」のなかで「家族写真の歴史民俗学」として、植田の写真などが展示されていました...

人気の投稿