東京カテドラル聖マリア大聖堂 |
鳩山会館から目白通りに出ると椿山荘があり、その向かいに東京カテドラル聖マリア大聖堂がある。
丹下健三による設計で昭和37年(1964)に建てられたカトリックの教会である。
1.カテドラル・大聖堂
大聖堂の設計にあたっては、前川國男、谷口吉郎、そして丹下健三の3人による指名コンペが行われ、丹下が選ばれた。
外観は、ステンレスによる壁面で銀色に光り輝き、カメラのファインダーでのぞくとオートモードの露出も狂うほどだ。大きなテントを思わせる外観は見る角度によってさまざまに変化する。普通では見られないが仮にドローンで上空から見ると、建物全体が十字架の形になっている。
これは、HPシェルという巨大なコンクリート製の曲面板を8枚立てかけるようにしてつなぎ合わせた構造で、上から見たら十字架の形をつくり、内部には大きな空間をつくっている。
カテドラルの内部は一般には撮影不可であるが、中に入ると、広い空間に薄い光が差し込み、神秘的な空間を形成している。シェルとシェルの間が、きっちり接合されてはおらず隙間が設けられていて、その隙間にガラスがはめ込まれ、採光が図られていることで、こうした厳粛な空間をつくりだしている。
上空から十字架の形(写真はネットから) |
内部・神秘的空間(写真はネットから) |
後方の上には大きなパイプオルガンが据え付けられている。日本最大級のオルガンだそうだ。毎月1回、オルガンの演奏を聴くこともできるという。いまは他に人もいなくて静かな空間だが、オルガンの響きが流れると、荘厳な空間に変わるのだろうと想像してみた。
また、バチカンのサンピエトロ大聖堂にあるミケランジェロのピエタのレプリカが置かれている。十字架から降ろされたイエス・キリストを抱く聖母マリアの像はミケランジェロの最高傑作の一つだ。
ガラスケースにはフランシスコ・ザビエルの胸像も収められている。この胸にザビエルの聖遺物がおさめられているという。
ステンレスの壁が銀色に輝く |
カテドラルを出て、奥のほうへ歩くとルルドの洞窟がある。ルルドは、フランス・ピレネー山麓の村で、少女の前に突然、聖母が現れ、洞窟の下に行って水を飲みなさいと指さし、その清水を飲んだところ不治の病が治ったという奇蹟が起きたところである。
東京カテドラルの奥にあるルルドの洞窟は、このフランスのルルドの洞窟を再現しているという。洞窟の前に立つ聖母は「無原罪の御宿り」の姿で、この一角は神秘的な小宇宙を形成している。
今回、この洞窟の設計者が、チェコ出身のヤン・レツル(1880-1925)という建築家だということを初めて知った。ヤン・レツルは、原爆ドームとして知られている旧広島物産陳列館をはじめ、聖心女子学院、上智大学などカトリック系大学の校舎などの設計を手掛け、明治から大正期にかけて活躍した建築家だという。しかしながら、その建物は原爆ドームをのぞき、多くが震災、戦災により焼失し現存しているものはほとんどないという。この原爆ドームを残し、平和記念公園の軸として設計を行ったのが、丹下健三である。
ルルドの洞窟 |
「無原罪の御宿り」 |
ルルドの洞窟・祭壇 |
なお、丹下健三は、東京カテドラルの設計と同じ時期(1964年)に東京オリンピックのための代々木競技場を設計している。この建物は、完成年代が新しい「最年少」の重要文化財として指定されることになっている。
また、丹下健三の葬儀も、ここ東京カテドラルで行われたという(2005年91歳)。
参考:
『国立代々木競技場と丹下健三』豊川斎赫 TOTO出版 2021年
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