2022年6月1日水曜日

東京異空間63:二つの写真展を観た~土門拳と奈良原一高

 

写真展・案内状から

この前には、「二つの美術館を観た」をアップしましたが、今回は二つの写真展を観てきました。

一つは、写大ギャラリーで開かれた「古寺巡礼ー土門拳が切り取った時間」、もうひとつは日大芸術学部芸術資料館で開かれた「奈良原一高の世界」です。

 

1.「古寺巡礼ー土門拳が切り取った時間」

写真展・案内状から

(1)土門拳(1909-1990年)

土門拳は、いうまでもなく戦後日本を代表する写真家で、子供たちの遊ぶ姿をスナップで撮った写真、仏像などを大型カメラでクローズアップして撮った写真など、幅広い活動をし、その写真はリアリズムを追求したといわれる。

今回の「古寺巡礼」は彼の代表作の一つであり、当初は浩瀚な全5集の写真集が出版されているが、ここでの展示作品は、オリジナルプリントである。

 

土門は、「鬼の目」ともいわれる鋭い視点から、タイトルにあるように被写体の一部をクローズアップして「切り取った」写真が特徴である。例えば、写真展の案内状にも使われている深大寺・金銅釈迦如来像は、その指の欠けた手をクローズアップしている。

他にも、飛鳥寺・釈迦如来は、二つの大きな目をアップ、薬師寺・日光菩薩像はお臍の部分のアップ、神護寺・薬師如来像は下半身の衣の襞、などなど、その部分に美の追求が観られる。

これは、古都奈良を撮り続けてきた入江泰吉の仏像写真とは、また違う美の追求といえる。どちらが好みかといわれれば、やはり入江泰吉の仏像写真のほうかな。

しかし、土門のこうした鬼の目がとらえた部分が、その仏像の美の頂点であることを納得させ、観る人の視点まで変えさせてしまったように思う。

 

今回展示されていた写真の中に渡岸寺・十一面観音像があり、数年前に訪れ、その仏像の姿に感動したことを思い出した。

他にも、臼杵・石仏群や、奈良・滝の坂石仏群の地獄谷石窟仏など、自分がかって訪れ、撮ってきた写真を思い出した。

また、仏像写真ではなく、子供の遊ぶ姿をスナップで撮った写真を伊豆・天城の鈴木屋食堂で見たことを思い出した。伊豆天城に旅行した時、お昼を食べたお店に飾ってあった写真は、ここ伊豆で、この食堂の主人(?)が子供の頃、水遊びをしていたところを土門拳が撮ったという写真であった。

 

写真展「古寺巡礼ー土門拳が切り取った時間」に展示されている写真51点は、写大ギャラリー公式ホームページでみていただくとして、ここには、この写真展がきっかけで思い出した、自分がかって撮った写真を掲載しておきたい。

臼杵・石仏群(2017.10.17)

奈良・滝坂の道石仏群・地獄谷石窟(2019.3.2)

奈良・滝坂の道石仏群・朝日観音(2019.3.2)

滋賀・渡岸寺・十一面観音菩薩像(2020.12.16)絵葉書から

滋賀・渡岸寺・十一面観音菩薩像、裏側「暴悪大笑面」(2020.12.16)絵葉書から

伊豆天城・鈴木屋食堂の写真(2019.11.11)

(2)写大ギャラリー

写大ギャラリーは、中野坂上にある東京工芸大学のなかにある展示施設で1975年に設立された。当時は東京写真大学という名称であり、略して「写大」と呼ばれていたことから、名称が東京工芸大学に変更となってからも、その「写大」を残している。

この大学からは、多くの有名写真家を輩出しているが、その中のひとり、細江英公が、写真教育の現場でこそ、最も効果的な教材として、オリジナル・プリントを活用すべきだと考え、ギャラリー設立の重要性を主張したことから、このギャラリーがつくられたという。

細江英公のなかで最もよく知られているのは三島由紀夫をモデルに撮った写真集「薔薇刑」だろう。そのポスターがギャラリーの近くに貼ってあった。

写大ギャラリー

写大ギャラリー

写大ギャラリー

細江英公「薔薇刑」のポスター

写大ギャラリー・カメラコレクション

2.「奈良原一高の世界」

写真展・案内状から


(1)奈良原一高(1931-2020年)

奈良原一高は、戦後の写真界において、土門拳らのあとの新進気鋭の写真家として新たな領域を切り開いた。

この写真展は「奈良原一高の世界」として、代表的な作品が、オリジナルプリントで展示されている。

やはり、一番に印象に残るのは、彼の初期の作品である。

1956年、奈良原が大学在学時代に開いた個展「人間の土地」を開き、この写真の中で長崎・軍艦島での炭鉱で働く人間の姿を、新しいフレームで撮えている。その後、1958年には、函館近郊のトラピスト修道院で修道士などを撮った「王国」を発表し、観る者に衝撃を与えた。例えば、「王国」の最初は、遠景に舞台であるトラピスト修道院の建物を配し、手前には修道院で飼われている乳牛をアウトフォーカスでとらえた写真であり、また瞑想して神と向き合う「両目のまぶたを指で押さえている修道士の姿であり、

それぞれの場で生きる人間の「生きざま」のようなものを、前衛的な映像で追求した。

その一連のモノクロ写真は、強く印象に残る。

奈良原は、こうしたドキュメンタリー写真から、のちにはファッション写真を手掛けたり、またヴェネチアやスペインなど海外での撮影も行うとともに、逆に、「ジャパネスク」に見るような日本文化の美を新たな視線でとらえている。この「ジャパネスク」は1970年に発表されていて、当時、写真に熱中していた私は、この写真に見入った覚えがある。

 

じつは、この拙ブログは「奈良原一高展を観た」と題して2019年12月15日にスタートしている。これは世田谷美術館で開催された展覧会を観に行った感想を記したブログである。この展覧会の後、2020年1月19日に奈良原一高は亡くなっている。享年88歳

世田谷美術館・奈良原一高展(2019.12.15)

(2)日藝

日大芸術学部は、江古田にあり、付属施設として芸術資料館がキャンパス内に設けられている。日大芸術学部は略して「日藝」と呼ばれ、写真、映画、美術、音楽、文芸、演劇、放送、デザインの8学科を持っている。そうした芸術の総合学部として、江古田キャンパスは建物、デザインも美しく造られている。

写真学科は、写大と同じく、こちらも古くから、多くの有名写真家を輩出している。

芸術資料館は、写真関係だけでなく、映画、美術、演劇などの資料を収集しており、写真関係では、海外及び日本の写真家のオリジナルプリントのほか、幕末明治期の写真関係も所蔵している。

こちらも、日大芸術学部の公式ホームページで写真コレクションデジタルベースが用意されている。

日大芸術学部・江古田キャンパス

「日藝」


江古田キャンパス

江古田キャンパス

江古田キャンパス・広場

江古田キャンパス・彫刻
 

二つの美術展に続いて、二つの写真展を観て、ちょっと芸術的な空間に浸りました。また、久しぶりに大学のキャンパスに入り、若々しい空間に浸ることもできました。 

今回、こうしたプロのすぐれた写真に触れて、自分が撮った写真も思い出すこともできました。これからも、趣味の写真の幅を広げるためにも、いろいろな写真展にも出掛けたいものです。

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