2022年6月4日土曜日

東京異空間64:また二つの美術展を観た~SHIBUYAで仏教美術とボテロ展

また、二つの美術展を観てきました。ひとつは、松涛美術館で開催された「SHIBUYAで仏教美術ー奈良国立博物館コレクションより」と、もうひとつは、Bunkamura ザ・ミュージアムで開催されている「ボテロ展 ふくよかな魔法」で、いずれも渋谷にある美術館です。

 

1.SHIBUYAで仏教美術」@松濤美術館

(1)SHIBUYAで仏教美術」展

タイトルにあるように、奈良国立博物館のコレクションを渋谷で見ることができるという展覧会である。奈良国立博物館は、明治28年に建てられ、東京、京都と並ぶ国立博物館で、その建物は、迎賓館を設計した片山東熊である。

奈良博物館は、仏教美術の名品を数多く所蔵し、付設されている「なら仏像館」には多くの仏像が常設展示されている。

しかしながら、そうした仏教美術の所蔵品を東京で名品展として公開したことはこれまでになかったという。それが、今回、渋谷で見られるというわけだ。

中でも、展覧会の目玉は、国宝「辟邪絵」である。これは、12世紀ごろに描かれた絵巻で、邪悪な鬼類をけ除くための図柄が描かれた絵巻であるが、戦後、コレクター・益田鈍翁によって切り離され5幅の掛け軸になってしまった。

後期の展示は「鐘馗」と「神虫」であった。「鐘馗」は、大きな目をした鐘馗が小鬼を捕まえている姿であり、「神虫」は、蚕の美称とされる善神であり、恐ろしい姿をした蛾の姿が描かれている。他にも、如意輪観音像などの仏像や曼荼羅などの掛け軸があり、日本仏教美術の流れを追うことができる展示となっていた。

また、前期の展示で見ることはできなかったが、「倶利伽羅龍剣二童子像」が展示されていた。この「倶利伽羅龍王」は、先にブログで取り上げた田無神社の拝殿に同じ図像の彫刻があった。

奈良国立博物館の優品を渋谷・松濤美術館で観られた素晴らしい展覧会であったが、実際に奈良に行って、博物館を訪ね、仏教美術をゆっくりと観たいと思う。例年、秋には正倉院展も開かれる。

辟邪絵~鐘馗

辟邪絵~神虫

如意輪観音菩薩坐像

「倶利伽羅龍剣二童子像」

(2)渋谷区立松濤美術館~白井晟一(1905-1983)

松濤美術館は、その建物自体が芸術作品といえる。設計したのは白井晟一で、昭和期の建築家である。白井は、ドイツに留学し哲学などを学び、戦後になって建築、デザインなどを手がけた。中央公論社の新書、文庫のカバーを外した表紙にある鳥のデザインは白井によるものだという。

美術館の開館は1981年と、板橋区立美術館((1979年)に次ぐ2番目に古い区立美術館である。

まずは入口の大きな楕円の屋根、正面の外壁はピンク色した韓国の花崗岩で、「紅雲石」と白井が名付けた石が使われている。内部は、真ん中に大きな円柱形の空間が吹き抜けている。上を見ると、ぽっかりと青い空が見え、下を見ると、底に噴水があり、光に反射している。階段のデザインも螺旋を描き、光とともに不思議な空間を形成している。

1階の入口から、展示会場は、まずは地下に、半円的に観て回り、次に2階の展示場に行く、観終わったら、一階に戻る、そのことで建物全体を観て歩くことになる。

白井は、この松濤美術館のほかに静岡の芹沢美術館も手掛けている。こちらは渋谷区松濤という高級住宅街に建つ美術館であるが、対照的に、静岡の芹沢美術館は弥生時代の遺跡である登呂遺跡の公園に一角に建てられているという。

松濤美術館・大きな楕円の屋根

松濤美術館・正面入口



松濤美術館・吹き抜けの円柱

地下の噴水


地下の噴水

展示会場との渡り橋



橋の側面のデザイン

休憩場所

螺旋階段



1階ー2階の照明

2.「ボテロ展」@Bunkamura ザ・ミュージアム

3.松濤美術館から歩いても10分とかからないところに、Bunkamura ザ・ミュージアムがあり、いまは、ボテロ展が開催されている。

(1)ボテロ展

ボテロの絵は、見ればすぐにわかる、ふっくらと太った人物が描かれている。その体型に、どこか親近感を覚える、というわけでボテロ展を観てきた。

ボテロは、コロンビアの画家で、1932年ン生まれ、現在90歳、現役で活躍している。南米ん歩コロンビアといえば、政治腐敗、汚職、ゲリラ、殺人、麻薬など、世界で最も危険な国といわれていた。最近のニュースでは、大統領選挙が行われ、元左翼ゲリラの候補者がリードして、初の左派政権が誕生するのではないかと注目されているという。

 

ボテロの作品は、一見するとその「ふくよかな」描き方かたから、やさしさ、親しみやすさを感じるが、じっくり観ていくと、そこには、コロンビアの社会、文化、宗教などが色濃く反映されているのが分かる。

そのひとつが、「コロンビアの聖母」と題された絵である。ふっくらと描かれた聖母マリアは、目からたくさんの涙を流し、抱かれた幼子イエスは、小さなコロンビアの国旗を手に持っている。暴力が絶えない小さな国コロンビアの状況を嘆き、悲しんでいる。

また、「キリスト」と題された磔刑図には、やはり太ったキリストが十字架に架けられている。こんなキリストを描くのは、神に対する冒涜ではないのか、と思ってしまうような姿である。

もうひとつ、「夜」と題された絵には、太った悪魔がひしめくように夜の空に浮かんでいる。右下に描かれた赤い塔は教会だろうか。とすれば、教会の上に悪魔がひしめき、暗き夜の世界を描いているということだろう。

コロンビアは、信心深いカトリックの国であり、人々はカトリック的な倫理規則を重要なものとしていた。しかしながら、国家と教会があらゆる面で密着していて、それが腐敗した政治、治安悪化の原因ともいわれる。そうした背景を考えると、これらの絵は、非常に鋭い風刺であり、社会批判であると思う。しかしそこには、コロンビアをこれから良くしていこうというボテロの強い願いも込められているように観えた。

このボテロの絵を見て、先の松濤美術館で観た仏像・如意輪観音菩薩像と絵巻・辟邪絵の神虫と対比して観てみた。

ボテロの聖母と如意輪観音は、どちらも「祈り」の対象であり、グロテスクな悪魔と神虫(蛾)は、疫病など様々な邪をける神として、それぞれ人々の心を打つのではないだろうか。コロンビアと日本と、それぞれ状況は違い、人々の信仰も異なるにしても、「祈り」「願う」ことは同じであろう。

ボテロ展

「コロンビアの聖母」幼子イエスが持つコロンビアの小さな国旗

左「枢機卿」、右「キリスト」

「キリスト」

「夜」

「夜」

図録の裏表紙のデザインにも


なお、この展覧会では、一部の作品は撮影可能であった。美術史の名画を、自分の作風で描き、全く異なる名画に仕上げている。その興味深い名画のいくつかを載せておく。

これらは、美術史上の名画にならい、それを描いた画家に対するオマージュであるとともに、自らが美術史に名を刻むことに挑戦した作品のように思われる。

ピエロデッラ・フランチャスカ「「ウルビーノ公夫妻の肖像」

ファン・エイク「アルノルフィーニ夫妻」

ハンス・ホルバイン「ヨウショウノエドワード6世」

ラファエロ「ラ・フォルナリーナ」

レオナルド・ダ・ヴィンチ「モナ・リザ」

(2)unkamura ザ・ミュージアム

unkamura ザ・ミュージアムは、美術館だけでなく、映画館、コンサートホール、レストランなどがある複合文化施設であり、まさに「文化村」となっている。東急百貨店本店と一体となった建物で、1989年に開業した。

美術館は、地下階にあり、そこにはボテロの「小さな鳥」という大きな鳥のブロンズ像が置かれていた。ボテロの彫刻もふくよかな作品である。

このスペースには、レストランやカフェもあり、人々がゆったっりとした時間を過ごせるようになっている。この展覧会のタイトルのあるように、ボテロの絵を見て「ふくよなか魔法」にかかって、豊かな心になれるような気持ちになる。

ボテロ展・入口

ボテロ「小さな鳥」

文化村の地下から

文化村入口

文化村入口

文化村・花屋

文化村・映画ポスター

渋谷ハチ公前から

二つの美術展~メトロポリタン美術館展と大英博物館「北斎」展につづき、二つの写真展~土門拳と奈良原一高を観て、さらにまた二つの美術展~仏教美術とボテロ展を観てきました。ちょっと、勢い(調子?)づいてしまったかなと思っています。これからも、気を付けながらも、いい美術展、写真展を観に行きたいと思います。

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