15.小谷元彦(1972-)
小谷は、東京芸術大学で彫刻を学んだ。小谷は、ファントム、コーマ(昏睡)、幽体といった目には見えない幻を目に見える形にしようと作品を発表し続けている。高橋コレクションの中でも、購入した数の多さ、作品の大きさからしても、中心となる作家であるという。
《Human Lesson(Dress01)》1996
吠えかかる双頭の狼の毛皮が立っている。足元を見ると、黒いストッキングとハイヒールがのぞく。
《ファントム・リム》1997
黒髪の少女が、白衣を着て、ラズベリーの実をつぶし、真っ赤に染めた手のひらをみせる。体は浮遊しているようだ。
「ファントム・リム」とは、事故などで足などを切断したあと、ないはずの足が痛む幻覚のことをいう。少女の手はキリストの聖痕のようにもみえる。「ファントム」とは「幻」のこと、そこに小谷の出発点があった。
《サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)》2022
大きな体育館のような薄暗い部屋に、すくっと立つ像、頭の部分は光を出し輝いている。見た瞬間、驚いた、そして引き込まれ、いろいろな角度から何度もシャッターを切った。
サモトラケのニケの像と同じような服を着て、背中には翼、足元にはサーフ・ボード、バランスを取るためか、両手を大きく十字に広げている。これも浮遊しているかのような姿で、エンジェルが舞い降りてくるようだ。
この作品は、2011年の東日本大震災の後に制作された。小谷は「災害時にヘルプにやってきた匿名の人たちの救済の姿をこの像に習合させてあります」と語っている。実際、2022年に石巻で行われたアート・フェスティバルで、旧水産加工場に展示された。
エーゲ海のサモトラケ島で発見されたニケ。翼の生えた勝利の女神が、空から船の舳先へと降り立った様子を表現した彫像である。パリ、ルーブル博物館蔵。(ウィキペディアより)
16.青木美歌(1981-2022)
青木は、美大で、ガラス工芸を専攻する。ガラスという素材について、「何より透明なところが好きです。そこに”ある”のに”ない”ように感じることを不思議に思います」と語る。モチーフは、生命の根源である粘菌、バクテリアやウイルス、カビなど。そこには、見えないけれど強い生命力がある。「その目に見えない生命の力を、透明で割れやすく、見えづらいけれど、光があたると何よりも存在感を放つ、表裏一体の存在感を持っているガラスで表現している」という。2022年、41歳の若さで亡くなる。
《Her songs are floating》2007
この作品は、中古車の屋根の上から粘菌のような生命体がガラスによって表現されている。広い展示室には、青木の作品と、先に述べた鴻池朋子の《皮緞帳》、小谷元彦の《サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)》の3点が置かれている。スケールの大きな二点に対し、青木のガラス作品は小さい。しかし、それは超絶技巧でつくられた透明な美しいガラス・生命体である。作家は惜しまれて亡くなったが、作品はこれからも増殖していくように見える。
後ろは鴻池朋子の《皮緞帳》 |
後ろは小谷元彦の《サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)》 |
17.塩田千春(1972-)
1972年、大阪・岸和田の生まれ。ドイツ・ベルリン在住。塩田は、「記憶」といった不在の中の存在感を糸で紡ぐ大規模なインスタレーションを中心に、立体、写真、映像など多様な手法を用いた作品を制作している。 特徴的なのは、空間に「絵を描くように」、細い毛糸を立体空間に張り巡らせた作品である。
現在、大阪中之島美術館で開かれている展覧会は「塩田千春 つながる私 (アイ)」と題されている(会期2024.09.14–12.01) 。先日、NHK日曜美術館でも取り上げられていた。
《ZUSTAND DES SEINS(存在の状態)-ウェディングドレス》2008
この作品も、ウェディングドレスの周囲を黒い糸を巡らせている。塩田にとって、ドレスは第二の皮膚だという。白いドレスが黒い糸にまとわりついて浮いているように見える。しかい、そこにはドレスを身にまとう身体はない。ドレスに宿る「記憶」、そのドレスを着ていた人の「記憶」がこの無数に張り巡らされた糸に甦るかのようだ。
18.小出ナオキ(1968-)
主にFRP(合成樹脂)、セラミック、木などを用い、雲のお化けやドクロなど、異界のものたちや、自身とその家族を作品化している。 活動初期には母親の他界や、自身と恋人、結婚式、新居、子供の誕生など、小出の個人史ともいえる生活の転機をテーマとしていた。
《studio “Kunsthaus”》2006
「Kunst(クンスト)」とはドイツ語で「芸術」のこと。「芸術」の家の屋根の上に異形な人物(?)が、それぞれ愛らしくも、どこか不気味で不思議な形。この家の住人なのだろうか。
<続く>