2024年10月29日火曜日

東京異空間237:美術展を巡るⅡ-2~日本現代美術私観@東京都現代美術館

7.天明屋尚(1966-)

天明屋は、日本の伝統的な絵画を現代に転生させるという「ネオ日本画」を掲げる。自ら、「画狂」葛飾北斎、「画鬼」河鍋暁斎に続くべく「画強」と名乗る、平成の絵師である。

《ネオ千手観音》2002

《ネオ千手観音》は、《那羅延堅固王》、《蜜迹金剛力士》を脇侍にしている。千手観音の手をよく見てほしい、自動小銃、ピストル、ナイフといった近代的武器を持っている。天明屋は、「信仰」と「暴力」は対極的かつ紙一重であるという。今も起きている戦争、紛争への諷刺、警句であろう。しかも、描かれたのは2002年、アメリカ同時多発テロの翌年である。

これらは日本画に使われる岩絵の具ではなく、アクリル絵の具などで描かれた「ネオ」日本画である。

《那羅延堅固王》・《ネオ千手観音》・《蜜迹金剛力士》

《ネオ千手観音》

《那羅延堅固王》

《那羅延堅固王》

《蜜迹金剛力士》

《蜜迹金剛力士》


8.池田学(1973-)

池田は、1mmに満たないペンとカラーインクを用いて細密描写によりスケール大きな絵を描く。下絵を描かず、細部から細部へと連鎖させて、ダイナミックな構図と物語性を織り込んだ濃密な画面は、観る者を驚嘆させる。1点の制作に長いものだと2年を費やし、途方もない時間と、膨大なエネルギーが注ぎ込まれている。繊細でありながら、その迫力、深遠な力強さを観る側に与え釘付けにする。

《興亡史》2006

天守閣を舞台に武士の栄枯盛衰を描く、この絵は、細部まで描かれた線は徹底したリアリズムを生み出し、いっぽうで細部の積み重ねにより、城は少しづつ増殖し肥大化した有機体のように不均衡となり、城を侵食するように絡みつく大木(桜の木?)は生命感をほとばしらせる。このスケールの大きな城のあちこちに、よくみると小さな虫のように人間、武士が描かれたり、屋根の上を白い鶴、さらには戦闘機までが飛び、電車も空中の線路を走っている。ひょっとして、この城は、「バベルの塔」なのか?


















9.やなぎみわ(1967-)

やなぎみわは、写真、映像、インスタレーションなどにより、女性をテーマとして作品を制作している。とくに、作り込まれたセットで撮影された写真作品で知られる。

《案内嬢の部屋3F》1998

百貨店の案内嬢、エレベーター・ガールがエレベーターの中央におかれた鏡に足を投げ出して、自らを見つめている。皆、同じ制服で、マネキンのような、それぞれの女性がナルキッソスが水面を見つめているかのように自己陶酔している姿を写し撮っている。




10.加藤泉(1969-)

加藤が描く「かたち」は、胎児のようにも、原始的な生き物ようにも見える、頼りなさげで、不気味にも見える異様な姿、それでいてどこか愛嬌も感じる。その「かたち」には加藤が幼いころから親しんできたマンガや映画の怪獣など様々なイメージが重ね合わされているという。

高橋は、これを人類が最初に直立した瞬間の覚束なさに重なっているという。類人猿の胎児のまま、裸のサルとして生まれた「ネオテニー」だとする。ネオテニーとは「幼形成熟」と訳され幼形のまま性的に成熟してしまう現象をいう。高橋コレクションの第一回の展覧会のタイトルは「neoteny japan(ネオテニー・ジャパン)」と名付けられている。

《無題》20042006 

この木彫の像は、大きな赤ん坊が初めて立ち上がったかように、いかにも頼りなさげで、壁にもたせかけないと倒れてしまいそうだ。実際、この彫刻は壁がないと本当に倒れてしまうのだという。それにしても、こちらを向く顔は、どこか愛嬌があるようにも感じないだろうか。下に置かれたもう一体は、お尻から花の蕾が膨らんできている。こちらは後から制作されたものだが、一緒に置かれることで、さらに不思議な、そして異様な空間も作り出している。これは原始の異空間なのだろうか。

《無題》2004

《無題》2004

《無題》2004

《無題》2004

《無題》20042006

《無題》2006

《無題》2006

《マエ》1999

《無題》2007、2009 

こちらは、絵画である。描かれた異様な「かたち」を幼児のまま成熟した新人類に見立てているという。

《マエ》1999

《無題》2009

《無題》2007


11.町田久美(1970-)

町田の描く線は、和紙に描いた太く黒々とした墨の線である。いっきに引かれたようにも見える線は、実のところ、コシの強い面相筆で、細い線を引き重ねている。そのため、一日に10数センチしか描けないのだという。

町田は、日本画の技法と画材を用いて新しい表現を切り開いてきた。

《訪問者》2004

虚ろな目で、黒々とブラックホールのような頭部から生えたいくつもの手がどこか外部とリンクしている。現代のコミュニケーションに潜む不安を表わしているようだ。

《訪問者》2004

《訪問者》2004


《郵便配達夫》2006

伊藤若冲が描くような鶏にまたがり、鞭をふるう郵便配達夫、どこか幼稚園児のようだが、「福助」だともいう。

《郵便配達夫》2006


12.鴻池朋子(1960-)

鴻池朋子は、絵画、アニメ、絵本、彫刻と様々な作品を制作しているが、作品にはオオカミ、ナイフ、ハチ、赤いスニーカーなどのモチーフがくり返し現われ、独特な鴻池ワールドが展開する。

かつて自分も、鴻池朋子展 インタートラベラー 神話と遊ぶ人』@東京オペラシティアートギャラリー2009/07/182009/09/27を観た覚えがある。狼の絵や、狼の毛皮を使った作品などの印象が強く残っている。しかし、その展覧会以後、鴻池は沈黙を通し、ほぼ6年間、大きな発表もなしに過ぎたという。

そして2015年に「根源的暴力」と題して開いた個展において、壮大なスケールの作品《皮緞帳》を発表した。なめした牛皮にクレヨンや水彩で描かれた溢れる色の集積は、幅25メートルにも及ぶ。鴻池の絵画の旅を高橋は次のように語る。「二十五メートル幅の皮はいまや、自分の皮や地球の表面を剝がしていく旅になっている。」

《第4章帰還ーシリウスの曳航》2004






《皮緞帳》2015-6












13.松井えり菜(1984-)

松井は「モチーフのなかで、顔がいちばんおもしろい」という。おかしな表情、変顔の自分を描き、「作品を観て、笑ってくれたらうれしい。絵の前でコミュニケーションが拡がる瞬間を目の当たりにするたびに、やっぱり絵はおもしろいんだと科の精を感じる」と語る。

《食物連鎖 Star Wars!》2008

大きな口のなかに、ビッグバンから始まる宇宙や、ウーパールーパーからティラノザウルス、マンモスまでが一挙に飲み込まれようとしている。人類が食物連鎖の頂点に立っているというテーマだが、高橋はこの絵に対し「彼女のダイナミズムが爆発している。何しろ彼女は宇宙の歴史まで飲み込んでいくのだ」と評している。



14.前本章子(1957-)

前本は、恋愛、結婚、出産、子育てといったなかで女性が経験する苦悩を織り込んだ作品を制作している。その作品は、手芸やファッションなどと隣接するものとして現代美術の領域を拡げようとしている

《BLOODY BRAIDEⅡ》1984

花嫁の行く末を暗示するような血染めの赤いウェディングドレスと、未来を祝福する招き猫、しかし猫の持つ鏡は割れていて、不安を滲ませる。



招き猫の持つ鏡は割れている

<続く>

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