江東区にある東京都現代美術館で開催されている「日本現代美術私観」を観てきました(2024.8.3~11.10)。現代美術館を訪れたのも初めてでしたが、日本の現代アートをこれだけまとまって観るのも初めてでした。これらは高橋龍太郎という個人のコレクションです。
展示はほぼ時代順に並べられて、構成はつぎのようになっていました。
1.胎内記憶、2.戦後の終わりとはじまり、3.新しい人類たち、4.崩壊と再生、5,「私」の再定義、6.路上に還る、いかにも現代的なタイトルですが、以下では、インパクトの大きかった作品、作家を取り上げて観ていくことにします。
なお、第2展示から写真撮影可でした。展示されているインパクトの大きい作品に圧倒され、カメラのシャッターを次々に押してしまいアップする数も多くなってしまいました。
数も多くなってしまったので、いくつかに分けてアップします。
(参考):
『現代美術コレクター』高橋龍太郎 講談社現代新書 2016年
『neoteny japan』高橋コレクション 美術出版社 2008年
『Mindfulness!』高橋コレクション 美術出版社 2013年
1.高橋龍太郎コレクション
高橋龍太郎は、精神科医であるが、日本の現代アートのコレクターとして知られている。1946年生まれ、慶應義塾大学の医学部では全共闘運動も経験、1997年から現代アートのコレクションをはじめ、コレクションの数は3500点を超えるともいう。
コレクターとしての出発点は、草間彌生に魅入られ、以来、いわば「女神」のように、コレクションを形成していくメインエンジンとなったという。
そのほか、初期のコレクションの中で重要な位置を占めているのが、会田誠、山口晃の作品であった。現代作家としては、村上隆、奈良美智が世界的にもよく知られているが、これらの作品もコレクションの中に入っている。こうした現代アートは、日本のサブカルチャー、すなわちマンガ、アニメ、ゲームといった文化との連関が強く、美術史的には、日本画、洋画といった、これまでのジャンルを超えて生まれたといってもよいだろう。しかし、作品を観ていくとそこには、伝統的な日本画の技、心が埋め込まれているように思う。
展覧会では、こうした作品が東京都現代美術館という大きな会場いっぱいに展示されている。名の知られている作家の作品もあるが、多くは初めて知る作家であった。
中原實(1893-1990)
まず、展示の最初に出てくる《杉の子》中原實1947年という作品が印象に残った。井の頭公園にあった杉の木が切られ、そのもとに眠る二人の子供を描いたものだ。次のような説明を引いておく。
「実は、絵の上半分と下半分では、空間だけでなく時間も異なるのです。下部は1947年当時の中原の自宅。眠っているふたりの子どもは、自身の娘です。上部は、戦争末期である1944年前後の井の頭恩賜(おんし)公園の杉林です。井の頭恩賜公園の近くに住んでいた中原は、戦争の資材として使うために次々と木が伐採される状況を見て『とうとう公園の木まで切られる事態になってしまった』と感じたようです。この絵には、現在と近接の過去が描かれている 」
井の頭公園は、よく行く公園でもあり身近に感じるところであるので、非常に印象に残った作品であった。
《杉の子》中原實 1947 |
他にも、第一会場の展示は撮影不可であったが、草間弥生、合田佐和子、荒木経惟(アラーキー)、森山大道、横尾忠則などよく知られた作家の作品が並んでいた。
2.村上隆(1960-)
村上隆は、芸大出身、アニメーター志望だったことから、モチーフはアニメなどのサブカルチャーであった。今や国際的評価も高く、日本の現代アートを代表する作家である。
《ズザザザザ》1994 |
《ズザザザザ》部分 1994 |
《ポリリズム》1990 |
《ポリリズム》1990 |
《ポリリズム》1990 |
《ポリリズム》1991 |
《ポリリズム》1991 |
《ポリリズム》1991 |
《Mr。DOB》1996 |
3.奈良智美(1959-)
愛知県立芸術大学を出て、ドイツに渡り,ドイツに滞在して活動をした。奈良の描く少女は大きな目をして、ちょっと睨んでいるような顔は、国や文化を超えて幅広い人気を得ている。
《人面犬》1989 |
《無題》1990 |
《押忍》1998 |
《Designer Gene》1999 |
《A Knocked Down Dragged Out Fight!》1998 |
《Green Mountain》2003 |
《Green Mountain》2003 |
《Untitled》1999 |
4.会田誠(1965-)
会田誠は、奈良智美、村上隆に続く世代を代表するアーティスト。テーマにはエログロ、社会問題を扱い、過激ともいわれる表現は、ときに反発も買うが、いっぽうで熱狂的なファンと高い評価を得ている。
《紐育空爆之図》1996
戦争画RETAURNSのシリーズ。
零戦の空爆を受けるマンハッタンは狩野永徳の金雲がたなびく『洛中洛外図』から、燃える炎は『伴大納言絵巻』から、無限大記号に飛ぶ零戦は加山又造の『千羽鶴』から、それぞれ「本歌取り」している。1996年に描かれたが、2001年に起きたニューヨークの同時多発テロを予言した作品ともいわれたという。
屏風の裏側、台はビール箱 |
《大山椒魚》2003
民話的イメージをもとにして日本的な絵画を目指した大作。この絵にも藤田嗣治や、加山又造の裸婦を意識していることが表れている。背景には縁起の良い柄である青海波が描かれている。
5.山口晃(1969-)
緻密に描き込んだ景観図は、油彩を使いながら、やまと絵の作風を流用し、絵の中に現在と過去とを混在させ、ユーモアを取り込んでいる。
道後温泉で行われた2016年のアートフェスティバルで「街歩き旅ノ介 道後温泉の巻」として山口晃の作品が用いられた 。
《當世おばか合戦》1999
《當世おばか合戦-おばか軍本陣圖》2001
6.西尾康之(1967-)
何よりもスケールの大きさに驚くだけでなく、その作り方が独特である。「陰刻鋳造」と言われる制作方法は、通常のブロンズなどの鋳造彫刻は粘土で完成形と同じ雄型を作りそれを型どりした雌型に石膏を流し込むが、陰刻鋳造は、反対に雄型をつくらずに粘土に指を押し付け直接雌型をつくりあげる方法だ。したがって完成した作品には作家・西尾の指跡が刻み込まれることになる。西尾はここに、母の胎内から外界に向けて発する胎児の表現、主張との類似を見出しているという。スケールの大きな彫刻作品には作家の指を通じて膨大なエネルギーが注ぎ込まれている。
《Crash セイラ・マス》
大きさは、280×400×600センチもある、これを先の陰刻鋳造で作成しているのだ。セイラ・マスは『機動戦士ガンダム』の美貌のヒロインだが、顔は邪見な表情で、見る側には飲み込まれそうな恐怖を覚えるほどだ。そのエロチックとも言える肢体をぐるりとひとまわり、顔をアップにして撮ってみた。
下に鏡が置いてあり、内臓が見えるかのよう |
<続く>
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