ツワブキ |
永青文庫で開かれていた「美術の殿様」展を観に行った。その後、隣接している「肥後細川庭園」を回って、高田馬場に向かった。途中、面影橋辺りから坂を上がったところに、「亮朝院」という日蓮宗の寺院があった。
1.永青文庫
永青文庫は、細川家に伝来する美術品や刀剣、歴史資料などを所蔵・展示する美術館である。ここで「美術の殿様」展として、所蔵する名品が展示された。中でも興味があったのは白隠の禅画と近代日本画の菱田春草の「黒き猫」である。「黒き猫」は、春草の代表作として良く知られている作品で、柏の落ち葉が散る中、その幹に黒い猫が座って、じっとこちらを見つめている、不思議な秋の景色を描いている画である。(重文になっている)
入口で、どういうことか、そんな黒い猫がいて、こちらをじっと見ていた。招かれるように美術館に入っていった。
菱田春草「黒き猫」 |
永青文庫の黒き猫 |
永青文庫は、細川家の広い屋敷跡の一角に建てられており、現在の建物は細川侯爵家の家政所として昭和初期に建てられたものだという。その部屋がそれぞれ展示室となっていて、お殿様気分?で名品を見ることができる。
永青文庫 |
永青文庫・石門 |
永青文庫 |
2.肥後細川庭園
永青文庫に隣接して肥後細川庭園があり、近年、改修整備され公開されている。
庭園は池泉回遊式庭園になっており、行った頃はツワブキの黄色い花が池の周りに咲いていた。ゆっくりと散策するには絶好の場所だ。
このあたりは、江戸中期以降は旗本の邸地になり、江戸末期には清水家や一橋家の下屋敷であった。そして幕末には肥後の細川侯の下屋敷に、明治には細川家の本邸となったところだという。
訪れたときには、まだ紅葉には早かったが、秋が深まると、池の周りのモミジやハゼノキが真っ赤に紅葉し、その姿を水面に映し出すという。また庭園の横には神田川が流れていて、春になると、桜の並木が川面に映り、花が散れば花筏となって流れていくのを見ることができる。肥後の殿様も、そんな景色を楽しんだのだろうか。
ツワブキ |
肥後細川庭園 |
肥後細川庭園 |
シュウメイギク |
ナンテン |
肥後細川庭園入口 |
3.亮朝院
細川庭園を出て、神田川を渡り高田馬場に向かうと、面影橋あたりに路面電車が走っている。都内唯一の路面電車「都電荒川線」で、早稲田から三ノ輪橋間を走っている。まだ乗ったことはないが、一度乗ってみたいと思っている。
そこから坂を上がっていくと山門に「如意山」という扁額が掲げられたお寺が見えた。中に入ってみると、ちょっと変わった顔した狛犬、そして両脇には一対の仁王像・石像がある。本殿には「七面大明神」とある。なかなか由緒あるお寺なんだろう、と思って、帰ってから調べてみた。
寺の名は、正式には「如意山亮朝院栄亮寺」といい、日蓮宗の寺院で、江戸時代に、この地に建てられた。江戸名所絵図には「高田七面堂」として載っていて、一般には「赤門寺」と呼ばれ七面信仰が江戸に進出した嚆矢の寺だという。
七面信仰は、日蓮が開いた身延山久遠寺の守護神として、また法華経を守護するという七面大明神を祀る七面山を本地とする信仰である。
亮朝院は、七面大明神の御祈祷所として、江戸城大奥と深く結びついて信仰を広めていったという。
その、江戸城大奥女性と七面大明神との信仰的な結びつきは、家康の側室・養珠院お万の方が女人禁制であった七面山を初めて踏み分けたことに端を発する。
お万の方は女人成仏が説かれる法華経の熱心な信徒で、法華経の守護神である七面山へ、当時はまだ女人禁制であったこの山へ初めて登詣した女性であった。
お万の方は、日蓮が誕生した小湊に近い千葉・勝浦の生まれで、熱心な日蓮宗の信者であったので、浄土宗である家康に対しても筋を通したという勇気ある女性だったようだ。
お万の方の強い七面信仰をはじめとして、日蓮宗の僧による病気平癒、延命息災などの現世利益の加持祈祷により、七面大明神の霊験は大奥の女性たちに広まり、七面大明神のお守り、護符等が大奥女性に注文されたという。
こうして江戸城大奥女性の信仰が広がるなか、亮朝院は大奥の老女近江局を通じることによって、三代将軍家光以来、代々将軍家の武運長久の祈願所となり、元禄14年15年と2回にわたり桂昌院(綱吉の母)の参詣を得る五度に興隆したという。
亮朝院は、こうした将軍家との密接な関係を強調するとともに、現実的な願いを充たしてくれる守護神としての七面大明神の霊性と御利益を広く一般庶民にも説いたので、七面信仰が江戸に広まったという。
ふと立ち寄った寺院、亮朝院について調べてみると、江戸の大奥の女性や、庶民への信仰が広がっていた歴史を垣間見ることができた。
都電荒川線 |
「如意山亮朝院栄亮寺」 |
亮朝院・狛犬と仁王像 |
狛犬 |
狛犬 |
仁王像・石像 |
仁王像・石像 |
亮朝院・本堂 |
亮朝院・龍神 |
亮朝院・鐘楼 |
目白台の肥後の殿様の屋敷には秋を見つめる黒猫がいて、そこから神田川をわたると、亮朝院の狛犬と仁王様が遠く江戸の世界を見つめる「東京異空間」があった。
シュウメイギク |