2026年1月5日月曜日

東京異空間382:嵯峨本の誘惑@慶應義塾ミュージアムコモンズ

 


嵯峨本の誘惑@慶應義塾ミュージアムコモンズを観てきました。会期は1128日で終了していますが、ブログにまとめるのが遅くなりました。嵯峨本というのは、日本の出版史上、最も美しい本とされています。これまでは本阿弥光悦とその門流が京都嵯峨で出版した書物で、「光悦本」とも呼ばれていますが、近年は、光悦の関与を疑問視する意見もあるということです。

この展覧会では、千葉・銚子にある飯沼観音圓福寺のコレクションを中心に構成されていました。このお寺のコレクションは、テレビ東京の「開運なんでも鑑定団」に所蔵の嵯峨本『徒然草』が出され、鑑定額は1500万円、さらに中国宋時代の版本である「韓昌黎集」9冊を出品したところ、3億円の鑑定額が付けられたということです。

1.飯沼観音園福寺の寺宝

千葉・銚子漁港にほど近い丘の上に鎮座するのが、飯沼観音圓福寺で、坂東三十三観音の第27番札所となっている。ここは、仏画などの寺宝のほか、古典籍のコレクションを所蔵している。

五大尊像 江戸時代







不動明王二童子像 鎌倉時代






飯沼山観世音縁起絵巻 1650(明暦2)年 狩野友仁正成 筆







2.「嵯峨本」とは

京都・嵯峨の豪商角倉素庵によって刊行されたとされる嵯峨本洗練された活字のフォント、誤植に塗り分けた色紙やキラキラ光る模様が印刷された装飾紙を用い、複雑な仕立てで制作されており、美術品としても高く評価されている。これらは、本阿弥光悦の筆跡、意匠により造本されたものとされていた。

しかしながら、近年の書誌学的研究においては、制作の状況に謎が多く、その範疇にも揺れがあり、明確な定義も難しいとされ従来の「光悦が自ら筆を執った」といった通説は見直しされているという。むしろ、光悦の追随者である*角倉素庵こそが、「嵯峨本」制作の主体であると考えられている。

*角倉素庵(1571-1632)

素庵は、朱印船貿易で莫大な財を成し、大堰川、高瀬川の開削などで名高い豪商・角倉了以の長男で、家業を継承する一方、藤原惺窩に儒学を学び、光悦に書を学んだ一流の文化人であった。晩年、家業を子に譲って嵯峨野に隠居し、光悦門下の俵屋宗達の協力を得て、古活字の嵯峨本(「角倉本」といわれる)を刊行した。

『伊勢物語』 1608(慶長13)年 角倉素庵 刊 嵯峨本古活字




『平家物語』 1604(慶長9)年 下村時房 刊 古活字

かつては嵯峨本と考えられていたことのある古活字版。



詩歌懐紙 1599(慶長4)年 中院通勝 筆



嵯峨本の代表的存在と認められるのが『伊勢物語』。日本の古典作品の版本で初めて挿絵を加え、以後の絵入り版本の流行の契機となった。

伊勢物語聞書<肖聞抄> 1609(慶長14)年 宗祇講牡丹花肖柏録 嵯峨本古活字



3.光悦か素庵か

嵯峨本は長らく、同時代に有名な書家である本阿弥光悦の筆跡をもとに活字が造られたと考えられてきた。しかし、光悦の書の弟子であった角倉素庵の筆跡資料発掘も進み、最近では光悦の関与は否定され、素庵の筆跡が利用されていると考えられるようになってきた。

古歌巻 江戸時代初期写 伝本阿弥光悦 筆


 

木版下絵和歌巻断簡  江戸時代初期写 伝本阿弥光悦 筆




古歌色紙  江戸時代初期写 伝本阿弥光悦 筆



古歌巻 江戸時代初期写 伝角倉素庵 筆



木版竹下絵和歌巻断簡 江戸時代初期写 伝本阿弥光悦 筆



川辺新四郎宛書状 江戸時代初期 角倉素庵 筆



観世黒雪宛書状 江戸時代初期 角倉素庵 筆


『徒然草』 慶長刊 兼好法師著 慶長中刊10行本 古活字



1603(慶長8)年以前刊 兼好法師著 嵯峨本古活字





『方丈記』 1610(慶長15)年以前刊 鴨長明著 角倉素庵 刊 嵯峨本古活字



源氏物語 橋姫図 江戸時代初期 伝俵屋宗達 筆


朧月夜内侍図 江戸時代初期 伝岩佐又兵衛 筆





4.伝嵯峨本源氏物語

嵯峨本といえば、題簽にキラキラ模様の装飾紙を使用した『源氏物語』が知られているが、現在では嵯峨本としては否定的な意見が強いとされる

源氏物語 床夏・若菜上下 慶長元和刊 紫式部著 古活字 圓福寺蔵



5.光悦謡本

嵯峨本で別格の存在感を示すのが、「光悦謡本」である。キラキラ模様を印刷した紙や五色に塗り分けた紙なども利用し、バージョンも多く、また謡本は100冊がセットで制作されることから残存数も他の嵯峨本に比べて多い。

光悦謡本 実盛 慶長刊 角倉素庵刊 嵯峨本古活字 圓福寺蔵



光悦謡本 あこき・あま・自然居士・はせを・三輪 慶長刊 角倉素庵刊 嵯峨本古活字 圓福寺蔵








嵯峨本について、従来の通説である本阿弥光悦による制作ということが否定されてきているということを知りました。嵯峨本そのものを観る機会もこれまでありませんでした。

書誌学的なことは難しいですが、展示されていた美しい本、そして福寺の寺宝など素晴らしい絵画観ることができました。

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