2023年3月26日日曜日

東京異空間84:井の頭恩賜公園の桜

井の頭公園の桜

井の頭公園には、近いので時々訪れますが、桜の時期に訪れたのは、2019年、コロナの前であり、4年ぶりとなります。井の頭公園は、都内の桜のスポットとしてもよく知られていますが、公園内には、「井の頭文化園」として動物園、水生園、さらには彫刻園があります。

また、前回の拙ブログで飛鳥山、そして明治神宮などに渋沢栄一が大きく関わっていたことを述べましたが、今回の井の頭公園の歴史にも渋沢栄一が大きく関わっていました。

1.東京養育院井之頭学校

井の頭公園は、大正6年(1917)に開園されたが、明治時代は御料地で杉などの雑木林であり、そこが公園になるには、渋沢栄一の生涯、半世紀にわたる社会事業の取り組みが大きくかかわっていた。

武蔵野の雑木林であった御料地に、明治38年(1905)に「東京市養育院感化部井之頭学校」が開設された。明治以降、幕府崩壊や日清・日露戦争などにより多くの貧困層が生まれ、そのため、幼児から老人までさまざまな事情で生活を維持できなくなった人々を保護し、教育や医療を提供する救貧施設として「養育院」が開設された(明治51872) 。当初は旧加賀藩・前田邸の敷地につくられたが次々と移転し、現在の「井の頭自然文化園」の動物園がある場所(御殿山地区)に、普通児童と感化部の不良少年とを分離するため、養育院感化部井之頭学校がつくられた。しかし、自ら院長を務めていた渋沢栄一、この場所は、学校の周囲が雑木林で殺風景で子どもたちがかわいそうと不満を抱いていた。そこで大正2年(1913)の春に、東京市職員の井下清1884-1973に依頼し、楽しくて美しい庭を造ってほしいと依頼した。依頼された井下は、東京市の職員で当時30歳(渋沢は70歳)、後に「公園の井下」と呼ばれた。井下は、日比谷公園、明治神宮の森をつくった本多静六や原煕などの門下に連なる造園専門家であった。井下は、渋沢に案内された井の頭の景観を見て、この井の頭の池と森を東京市民の公園にすること、そうすれば学校の卒業生もここで働けるようになることを進言した。渋沢は提案に賛同し、娘婿である東京市長・阪谷芳郎とともに宮内省に御料地の下賜を働きかけた。そして大正21021日東京市の本会議に「郊外公園設置ニ関スル件」を提出し議決された。

井下は東京市の職員でかつ造園の専門家として、武蔵野の自然を最大限にいかすことを基本に何枚もの設計図を描いた。渋沢と井下が出会って8ヶ月で公園とすることを条件に皇室より御料地を下賜され、日本で最初の恩賜公園となった(大正6年1917開園)。

しかし、昭和になると、公園利用者が増えたことに伴い、井の頭公園内に茶屋料理店などができ、教育上、井之頭学校との共存が難しくなったことから、昭和14年 (1939年)井之頭学校は萩山(東村山市)に移転し、学校があった敷地は、動物公園となり、校舎の廃材は、動物園の動物舎に再利用されたという。

なお、養育院は現在、東京都健康長寿医療センターとして板橋区にある。そこには、渋沢栄一の功績を讃え、大正14年(1925)に銅像が建てられており、今もセンターの敷地の残されている。渋沢は、明治9年(1876)に養育院の事務長に就任し、その後、院長となって、昭和6年(1931)に亡くなるまで約50年にわたり院長を務めた。

井の頭公園の歴史とともに、あらためて、渋沢の福祉思想とその実践に驚嘆する。

参考:

テレビ東京「新美の巨人たち~井の頭恩賜公園」 2023.2.4放送

『井の頭公園』前島康彦 郷学社 1980

渋沢栄一銅像(東京都健康長寿医療センター内、板橋区H.Pより)

(追加)

養育院井之頭学校の資料(渋沢史料館企画展「養育院の院長さんー渋沢栄一」より


井之頭学校の生徒を飛鳥山の渋沢邸に招いた(明治4年)

招かれた生徒が自筆の作文を製本し栄一に贈った

養育院井之頭学校の開校式で演説する栄一・明治38年(1905)
浮浪の少年を「見て捨てておくと云ふは人道の上から出来ない訳であります」と強い思いを語った
井之頭学校での作業授業の様子

渋沢史料館については、
東京異空間89:飛鳥山の渋沢栄一(2023.4.2)を参照。

2.井の頭公園の桜

井の頭公園の池は、神田川の源流であり、江戸時代、神田上水として庶民の暮らしを支えた。その湧水を「井」といい、その一番であることから「井の頭」と名付けられたという。いまでも、池のほとりには水とかかわりの深い弁財天が祀られている。

春は、井の頭池の周りをぐるりと桜(ソメイヨシノ)が、水面を覆うように咲き誇り、七井橋から眺めると、一段と美しい。

池には、たくさんのスワン・ボートが繰り出し、ぶつかり合うほどに混雑している。このボート場は昭和4年(1929)の開設された。ただ、公園でデートして、ボートに乗ると、そのカップルは分かれるという「都市伝説」のほうがよく知られている。

井の頭池

賑わうスワンボート

井の頭池

七井橋からの桜の眺め

七井橋

弁財天

七井橋

弁財天付近の噴水

井の頭自然文化園の桜





お花見



井の頭公園に桜とともに、渋沢栄一の養育院の歴史をみて、その福祉思想と社会事業の実践に驚きました。

公園では、桜のもと多くの人が花見、ボート遊びなどを楽しんでいました。続いて、井の頭自然文化園の動物園、水生園とつばき園などの花々を観て来ました。

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