2025年5月12日月曜日

東京異空間314:美術展を観た

 

「かっこいい油絵 司馬江漢と亜欧堂田善」@府中市美術館

4月に観た美術展をまとめておきます。1.「かっこいい油絵 司馬江漢と亜欧堂田善」@府中市美術館(前期4/8,後期4/22)、2.水木伸一《房総》@府中市美術館コレクション、3.「オディロン・ルドンー光の夢、影の輝き」@パナソニック汐留美術館(4/14)、4.「小原古邨 ―鳥たちの楽園」@太田記念美術館(4/17)、5.「時代を映す錦絵」@国立歴史民俗博物館(4/17図録購入のみ)。

これらの美術展では写真撮影は不可でした。

1.「かっこいい油絵 司馬江漢と亜欧堂田善」@府中市美術館

司馬江漢と亜欧堂田善という江戸時代の洋風画家のふたりを一緒に取り上げた展覧会。亜欧堂田善については、2023年に大規模な回顧展、「没後200年 亜欧堂田善 江戸の洋風画家・創造の軌跡」@千葉市美術館が開かれ観に行っている。また、司馬江漢については、2024年に、「歸空庵コレクションによる洋風画という風」展@板橋区立美術館を観ているが、これだけまとまった作品を観たのは初めてである。

今回の、展覧会では、前期、後期で大幅に作品が入れ替わるので4/84/222回出かけた。出品数:193点うち、通期:41点、前期限り:77点、後期限り:75点。このうち、司馬江漢:90点、江漢関連:5点、亜欧堂田善 :65点、田善関連:5点、他の絵師:28点となっていた。

「かっこいい油絵 司馬江漢と亜欧堂田善」@府中市美術館


この展覧会で力の入っていたのはどちらかといえば、司馬江漢のほうだろう。二人の共通点と相違点から作品をみてみる。

(1)二人の共通点

司馬江漢は1747年生まれ、 亜欧堂田善は1748年生まれで、1歳しか違わない。亡くなったのは江漢が1818年、享年72歳、田善は1822年、享年75歳、とほぼ同時代を生きている。この時期は、田沼意次(9代将軍・家重、10代将軍・家治)と松平定信(11代将軍・家斉)が老中として、それぞれ「賄賂政治対「倹約政治」という対照的な政治をしたとされる。

また、二人は絵師としていわゆる洋風画を描くとともに、江漢は日本初の銅版画をはじめ、田善も多くの銅版画を残している。

(2)二人の相違点

いっぽう、相違点としては、江漢が絵師として早く(19歳のころ)から浮世絵師・鈴木春信の門下となるのに対し、田善は、遅く(47歳)のとき松平定信に取り立てられ谷文晁に入門するという絵師としての経歴は大きく異なる。

江漢は25歳のころ、南蘋派の宋紫石から中国風の写実画を学んだ後、平賀源内、秋田蘭画の小野田直武から洋風画を学んでいる。

亜欧堂田善は、谷文晁から絵を学んだのち、洋風画は江漢から学んでいると思われる。というのは、今回の展覧会で、どちらも「七里ガ浜図」「三囲雪景図」という同じ場所、同じ風景の作品が展示されていたからである。しかし、その作風は異なる。

江漢は、これまでの花鳥画に風景を取り入れた洋風画を描いた。画面に水(地)平線を描き、手前に鳥や犬などを配置し、遠近感のある空間を作り出し、そこに青空、雲を描きいれた。空の発見である。昨年、渋田松濤美術館で開かれた「空の発見」展にも江漢《駿河湾富士遠望図 》《犬のいる風景図 》が出品されていた。江漢は空の発見者のひとりであった。

これに対し、田善は風景に人物を配した風俗を取り入れた作品が観られる。田善には、洋犬、馬などを取り入れた作品はあるが、花鳥を取り入れた作品はほとんどない。これは田善が洋書などの図から多くを学んでいるからだろう。ただし、山水画は描いている。これは山水画の大家と言われる谷文晁から学んだからとされる。文晁の山水画よりも、かなりダイナミックな作風である。また、田善は銅版画でも江戸の名所を描いているが、彼の銅版画は江漢よりも技術が進んでおり、人物を中心とした風俗画的傾向が強い

<司馬江漢>

《司馬江漢像》 高橋由一 筆
七里ガ浜図

深川洲崎富士遠望図

馬入川富士遠望図

寒柳水禽図

捕鯨図

二見浦図

生花図

円窓唐美人図

卓文君図

地球全図


亜欧堂田善>

三囲雪景図

両国図

墨堤観桜図

墨堤観桜図(部分)

遠藤猪右衛門像(白河藩の大庄屋)


(3)その他の作品《ファン・ロイエン筆花鳥図模写》

江漢、田善の作品以外に江戸時代の洋風画を理解するため他の絵師の作品が展示されていたが、その中でひときわ大きく縦232.8cm 107.0cm)、印象に残ったのが《ファン・ロイエン筆花鳥図模写》である。これは、8代将軍・吉宗がオランダ商館長に紅毛絵の輸入を求め、1726年に長崎に5点の蘭(西洋)画が輸入されたもの。そのうち「孔雀、インコ、駝鳥、アオサギの図」「あらゆる種類のオランダの花の図」の2点の油彩花鳥画(現存していない)が、江戸本所の五百羅漢寺に下賜され本堂にかけられた。後者を1796年に石川大浪・孟高兄弟が模写したのが本作品である。さらに、これを谷文晁が模写した。文晁は大浪と親交があり、大浪を西洋画法の師と仰いでいた。双方とも、西洋絵画の陰影や立体表現を、日本の伝統的な技法と素材で再現した画期的な模写作品とされる。

こうした西洋画が鎖国時代の江戸に入り、日本独特の「洋風画」に発展していった。本格的な「西洋画」は、明治に入って、お雇い外国人や、海外留学など積極的に西洋画を取り入れることになる。

《ファン・ロイエン筆花鳥図模写》石川大浪・孟高兄弟・模写

(参照):

「亜欧堂田善」展を観た~千葉市美術館2023/2/11

東京異空間201:「歸空庵コレクションによる洋風画という風」展@板橋区立美術館2024/5/24

東京異空間248:美術展を巡るⅦ~空の発見@渋谷区立松濤美術館2024/11/20


2.水木伸一《房総》@府中市美術館コレクション

「司馬江漢・ 亜欧堂田善」展を観終えた後、別の部屋で府中市美術館コレクション展が開かれていた。そのなかで、印象に残った作品が水木伸一《房総》である。房総の海に牛が描かれていて、なにか湧き出すエネルギーを感じる絵であった。作者・水木伸一という画家も初めて知る。

水木伸一(1892–1988)は、愛媛県松山市に生まれ、東京へ出て中村不折に洋画を学んだのち、1914大正3)年、小杉未醒(放菴)宅食客となる。この時、村山槐多や、同じ松山出身の柳瀬正夢と親交を結んだ。

自分が房総に生まれ、また一時期、松山にも住んだ経験があることも、この作品に惹かれた大きな理由だ。

水木伸一《房総》


3.「オディロン・ルドンー光の夢、影の輝き」@パナソニック汐留美術館

オディロン・ルドン(1840-1916)は、フランス南西部のボルドーに生まれ、パリで絵画と版画の基礎を学んだ後、神秘的とも奇怪ともいえる幻想的なイメージを木炭画と石版画によりモノクロ表現する。さらにルドンは50歳以降、1890年代以降は、パステルや油彩へと次第に画材を替え、花や神話、宗教、人物などを主題とする色彩豊かな作品を制作した。

前期のモノクロの世界では、奇怪なモチーフが紡ぐ奇想の世界を木炭画や石版画で表現している。それに対し、後期では、色彩豊かに花や神話の世界をパステル画と油彩で描いている。

ルドンというと、どちらかというと奇怪な世界をモノクロで描いたものがよく知られているが、この展覧会で、あらためてパステルによる色彩豊かな絵がやはりいいなと思う。



4.「小原古邨 ―鳥たちの楽園」@太田記念美術館

小原古邨(18771945)は、明治末から昭和前期にかけて活躍した花鳥画の絵師。花鳥を得意とした鈴木華邨(1860-1919)に師事し、肉筆画の絵師として出発する。やがて日本画から離れ、木版画を活動の場とする。しかし、作品欧米で高く評価され、多くが輸出されたことから、逆に日本では忘れられた存在となった。

近年になり、茅ケ崎市美術館 (2018 )、太田記念美術館( 2019 年)、石川県立歴史博物館 (2021 )、佐野美術館 (2022 ) など、各所で展覧会が開催され、注目されてきている。とくに描かれた鳥や動物たちに愛くるしさ、やユーモアが感じられ、人気が高まっているようだ。

こうした鳥や動物たちは江戸時代の円山応挙、伊藤若冲らによって愛くるしく描かれており、そうしたいわば伝統が小原の版画にも引き継がれているといえるだろう。



《踊る狐》小原古邨


5.「時代を映す錦絵」@国立歴史民俗博物館

この展覧会は図録購入のみである。というのは、 国立歴史民俗博物館が千葉・佐倉にあり2時間以上かかること、また作品を観るだけでなく、解説が必要と思われたためである。

展覧会は、江戸時代末期から明治初期にかけての、戊辰戦争などの戦争や動乱、大地震、疫病の流行、多くの人々を集めた寺社の開帳や見世物、あるいは人々を熱狂させた流行現象など、激動する時代の諸相を描いた錦絵を、メディアとしての歴史資料的側面に光を当てて展示しているという。構成は次の9章になっている。

1.風刺画の基盤 2.風刺画の登場 3.鯰絵 4.流行り病と錦絵 5.激動の幕末 6.開帳と流行り神 7.横浜絵 8.動物狂騒曲 9.開化絵とその周辺

幕末から明治にかけての時代、世相を反映した錦絵、その諷刺の鋭さ、またそれを理解する読み手、庶民の鋭さを感じる。また、地震や疫病,戦争、内乱、さらにはペリー黒船=トランプ関税?などなど、いつの時代にもあり、人びとを不安がらせ、それを克服する強さをも感じる。

そうしたメディアとしての錦絵だが、いまやネット世界、AIなどにより、情報が複雑高度化し、ときにフェイク情報が広がり、何が信用できるのか。メディアの高度化とともに、それを受け取る側の高度化、賢さが求められている。

やはり、図録だけでなく、本物を見に行けばよかった、と思うが後の祭り。

図録『時代を映す錦絵


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