2023年7月1日土曜日

東京異空間131:大名庭園を歩く8~国際文化会館

国際文化会館

麻布にある国際文化会館に行ってきました。ここは、鳥居坂というかなり急な坂道の上にあります。この辺りも、武蔵野台地が渋谷川などによって刻まれた谷壁斜面が急な坂となり、坂の上が台地になっています。その地形を活かした緑の庭園と和風モダンな建物があります。



国際文化会館の入口

1.大名庭園の沿革

国際文化会館のある敷地は、江戸時代から幕末にかけて讃岐・多度津藩京極家の上屋敷であった。明治初期には、外務大臣として条約改正に取り組んだ井上馨の所有となった。井上は建築の嗜好があり、ここ鳥居坂本邸を1880年に建て、増築された際には明治天皇の行幸を得て、天覧歌舞伎が催されたという。また、1894年には近くに典雅な内田山本邸を建てたほか、都内だけでなく各地に多数の建物を普請した。

その後、久邇宮邸(香淳皇后は、この邸で生まれた)、赤星鉄馬邸(三菱系の実業家・
大正銀行頭取)、岩崎小彌太邸(三菱財閥創始者、岩崎彌太郎の甥)と、次々に所有者が変わったが、戦災により焼失した。戦後は国有地となり、この土地を国から払下げを受け、国際交流を目的とした国際文化会館がロックフェラー財団などの支援により1955年(昭和30) に完成した。

岩崎小彌太は、この鳥居坂本邸を、一種の迎賓館として、絵画からの賓客に対して日本の芸術文化の粋を示すためにつくったという。その建物の設計は、大江新太郎により、また庭園は「植治」こと七代目小川治兵衛によるものである。大江新太郎は、明治神宮の宝物殿を手掛けており、当時もっとも和風建築に通じた建築家とされる。しかしながら、先に述べたように19298昭和4)年の竣工からわずか16年後、1945(昭和20)年の東京大空襲により焼失した。

2.国際文化会館 

(1)庭園

建物は、空襲により焼失したが、庭園は、7代目小川治兵衛による作庭が残り、現在は国際文化会館の庭園として見ることができる。そう広くはないが、植治の特徴である池泉を中心として、多くの庭石、石灯籠、塔、などが据えられ、高台には多くの樹木を配し、周囲が見えないように緑の空間を形成している。

また、突き出した建物(後述)の屋上には、庭石を数個配置した枯山水が造られ、庭を回遊するというより、テラスの上から庭を眺める工夫がされている。

もちろん、建物の前は、連続するように芝庭が広がり、飛び石を伝わって池泉庭園を回ることができる。

建物の屋上に枯山水の庭園

池に突き出した釣殿風の建物


釣殿風の建物はレストランになっている

滝と石灯籠

滝口



池泉回遊







変わった石灯籠

五輪塔

石像


庭の周囲を囲む塀の屋根瓦

(2)建築

現在の建物は、前川國男1905-1986、坂倉準三1901-1969、吉村順三1908-1997)という日本の近代建築の巨匠三人の共同設計により、1955年(昭和30完成した竣工後、取り壊しの話が何度か持ち上がるが、別館の増築や、改修などにより、保存されてきている。

建物全体は庭との調和を図って建築されているが、 特徴的なのは、池辺に張り出した建物で、平安時代の寝殿造りの様式を取り入れた「釣殿(つりどの)」である。「釣殿」とは、池に臨んで建てられた建物で、水面に釣おろしたように造ることから名付けられている。この建物の屋上に枯山水の庭を造っているのも特徴的だ。


建物と庭の模型

釣殿風の建物

ティーラウンジから見る庭

建物に続く芝庭


手前が釣殿風のレストラン、その上はラウンジ

釣殿風のレストラン、ラウンジ、その上がホテル



ロビーラウンジ

左はティーラウンジ

東京タワーを望む入口

玄関入り口

国際文化会館は、公益財団法人となっているが、中にはレストラン、ティーラウンジ、宿泊施設、会議室、さらには図書室などが設けられています。宿泊などは会員利用となっていますが、レストラン、ティーラウンジなどは一般に利用できます。ここから、庭をパノラマ的に観ながら静かな時間を過ごすと、都会の喧騒を忘れさせてくれるようです。

ラウンジの近くに見た覚えのある絵が飾られていました。この絵は、1854年、下田の了仙寺境内で軍事訓練を行うベリー一行を描いたものです。日米の国際交流のはじまりということでしょうか。

「了仙寺で軍事訓練するペリー一行」の額(左隅に贈呈者のサイン)

なお、鳥居坂周辺には、東洋英和女学院があり、旧校舎はヴォーリズによる設計で、1933年(昭和8)に竣工しました。また、周囲には多くの大使館があります。鳥居坂を下って、麻布十番には、童謡「赤い靴」のモデルといわれる「きみちゃん」の像があります。「きみちゃん」は、1911年(明治44)に鳥居坂教会の運営する孤女院(女の子だけの孤児院)で9歳で亡くなったということです。


旧岩崎邸の石塀

急な鳥居坂

東洋英和女学院

スウェーデン大使館

サウジアラビア王国大使館

シンガポール大使館

「きみちゃん」の像・麻布十番


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