山の上ホテル |
神田駿河台にある「山の上ホテル」は、この2月で休館するということなので、行ってみました。このホテルは、多くの文筆家が「カンヅメ」として利用するということで知られています。休館前のイベントとしてホテル内の見学案内も企画されていて、多くのお客が訪れていました。
1.山の上ホテルの沿革
山の上ホテルは、1937(昭和12)年に、明治大学のOBで石炭商だった佐藤慶太郎の寄付をもとに、当初は「佐藤新興生活館」として完成した。設計は、ウィリアム・メリル・ヴォーリズの設計による。新興生活館というのは、今では聞きなれない言葉だが、佐藤慶太郎らがはじめたユニークな文化福祉事業「新興生活宣言」、すなわち欧米の生活様式による健康のための生活改善と、社会改良を目指す社会事業の拠点であった。
戦後は、GHQに接収され、米軍の婦人陸軍部隊の宿舎として使われ、「Hilltop」と呼ばれた。
1954(昭和29)年、接収解除後を機に、実業家・吉田俊男(1913-1991)が佐藤家から建物を借り入れる形でホテルとして開業した。 ホテルの名は、建物の愛称になっていた「Hilltop」を、吉田が「丘の上」でなく敢えて「山の上」と意訳したことによる。
クラシックホテルとして、35室の客室は同じ間取りはなく、また小規模なホテルの割にはバー、レストランなども充実していて、とくに文化人に好まれた。
その後、2019年に老朽化に伴いリニューアルを行い再開したが、2024年2月をもって休館することとなった。
2.アール・デコ装飾のホテルと教会
(1)アール・デコ装飾
山の上ホテルの特徴の一つとして、ホテルの外観と内部にアール・デコ様式の装飾を見られることである。アール・デコとは1920年代のパリで生まれた装飾様式で、幾何学モチーフや直線、波線形が多用され、クラシックでありながらどこかモダンな雰囲気を持ち合わせている。
ホテルの外観は、全面にタイル(スクラッチタイルではない平滑なタイル)で、曲面はなく、シンプルで、三階の中央の窓の下にある五段にせり出した三角形が三つあり、ポイントになっている。塔のトップには「HILLTOP HOTEL」の文字と三角、四角の柱がジグザグの階段のようにデザインされている。
山の上ホテル・塔のトップのデザイン |
山の上ホテル |
山の上ホテル・五段にせり出した三角形が三つ |
山の上ホテル・五段にせり出した三角形が三つ |
山の上ホテル・正面入口 |
ホテル裏側・急な傾斜の高台に建つ |
内部は、床の幅木に張られた緑と黄色の釉薬のタイル、螺旋階段、階段の階数ロゴ、客室表示、それほど広くはないが落ち着きのあるロビー、ところどころに張られたステンドガラス、おしゃれな照明などにアール・デコの装飾を見ることができる。
サボテンの標 |
エレベーター |
階段の階数ロゴ |
階段の階数ロゴ |
階段の階数ロゴ |
階段・釉薬のタイル |
階段・釉薬のタイル |
螺旋階段・5階から |
螺旋階段・5階から |
螺旋階段 |
釉薬のタイル |
釉薬のタイル |
釉薬のタイル |
釉薬のタイル |
客室表示 |
客室 |
創業当時から客室に一輪の赤いバラを飾ってお客さまをもてなししていたそう |
ロビー |
ロビー |
ロビーの照明 |
ロビーの照明 |
シャンデリア |
照明 |
天井のステンドグラス |
外から見たステンドグラス |
ステンドグラス |
ステンドグラス |
ホテルのロゴ |
ホテルのロゴ |
ホテルのロゴ |
(2)文化人のホテル
神田駿河台の高台に位置していることから、周辺には出版社が多く、作家たちの滞在や「カンヅメ」に使われ、「文化人のホテル」として知られている。
三島由紀夫は1955年(昭和30年)当時、「東京の真中にかういふ静かな宿があるとは思はなかつた。設備も清潔を極め、サービスもまだ少し素人つぽい処が実にいい。ねがはくは、ここが有名になりすぎたり、はやりすぎたりしませんやうに」と使い心地の感想を残している。
またホテルのレストラン、バーも充実しており、文化人に好まれた。食事処も小さなホテルの割には7店もあり、とくに「てんぷら山の上」は、美味しい天ぷらの店として知られている。
バー |
バー |
バー |
バー |
バー |
バー・カウンター |
バー・カウンター |
フレンチ・レストラン |
中華料理 |
「てんぷら山の上」 |
メセージノート |
三島由紀夫の書いたメッセージ |
(3)山の上教会
ホテルに隣接して「山の上教会」というチャペルが設けられていて結婚式を挙げることができる。チャペル周辺には豊かな緑が広がり、ガラスの天井から木漏れ日が降り注ぎ、明るく清らかな空間となっている。 天井のアーチはアール・デコで多く使われた様式で、天により近い場所で祈りをささげるための形とも言われている。
山の上教会・入口 |
山の上教会・入口 |
山の上教会・柵 |
山の上教会 |
山の上教会 |
山の上教会 |
山の上教会 |
山の上教会 |
ウィリアム・メリル・ヴォーリズの設計した建物がまた一つ消えてしまうのでしょうか。といっても山の上ホテルは休館ということです。ただ休館期間については未定とされています。お茶の水にあったヴォーリズの設計よる建物としては「主婦の友社」1925(大正14)年竣工、「お茶の水文化アパートメント」1925(大正14)竣工がありましたが、いずれも現存していません。
山の上ホテルには、以前から行ってみたいと思っていましたが、こうして休館前に来ることになるとは・・・。しかし、休館前の特別企画ということで、ホテルの部屋なども見学でき、教会も見ることができました。
三島由紀夫の言葉を真似て、「ねがはくは、ここが改築されたり、取り壊しされたりしませんやうに」と。
ウィリアム・メリル・ヴォーリズ |
ウィリアム・メリル・ヴォーリズについては、次の拙ブログでも取り上げています。
「東京異空間162:明治学院の歴史的建造物と歴史的人物」(2023/12/07)
「湖の国の旅1:近江八幡」(2020/12/03)
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