2024年4月24日水曜日

東京異空間194:代官山~旧朝倉住宅とヒルサイドテラス

 

旧朝倉住宅

代官山というと、おしゃれな街というイメージがありますが、東横線代官山駅から徒歩5分ぐらいのところに、「旧朝倉住宅」という大正時代に建てられ、重要文化財となっている建物があります。

モダンな街のなかに残る、大正時代に建てられた邸宅を見学してきました。

1.朝倉家

朝倉家の祖先は、元は甲州武田家に仕えた武士であったとされるが、後に帰農して渋谷に居住した。江戸末期には、米を作る傍ら 三田用水を利用した水車も所有し、米の賃搗き(賃銭をとって餅、米をつくこと)を行っていた明治になると、朝倉徳次郎は百姓が嫌になり「暁天に野菜を洗って出荷して5銭にしかならぬ」と言って精米業に転じた。米の賃搗きで得た現金により農民が安く手放した土地を次々と買い取り大地主となった。買い集めた土地は、現在の中目黒、恵比寿、代官山一帯、2万坪を越えてあったという。

徳次郎は、質朴勤勉な富民として平和な生活をなし、名望のため渋谷村会議員をつとめた。虎治郎は、養父・徳次郎の後を継いで、渋谷町会議員に推挙された。家業の傍ら自治の仕事に携わった。1915年、東京府会議員に選出され、家業一切から手を引いた。1919(大正8)年に、この大邸宅を建てた。

2.旧朝倉住宅・庭園

旧朝倉家住宅は、渋谷区猿楽町の、台地が目黒川の谷に落ち込む南西斜面に建てられた。関東大震災前の住宅であることから、国の重要文化財となっている。なお、現在の所有者は文部科学省である 。

宅地の北側に主屋が建ち、西に土蔵、東に庭門や附属屋(車庫)がある。主屋は二階建ての木造で、室内には意匠を凝らした欄間や襖、板戸の絵画などを見ることができ、 かつては2階から富士山が望めたという。土蔵は主屋に付随していて、外壁は鉄筋コンクリート造で、入口や窓は重量感のある鉄扉で作られている。 附属屋として車庫が大正8年の建設当初からつくられていた。当時はまだ市街地に周辺であったこの辺りでは車が必須となっていたようだ。

車庫は造られていても、洋館は建てられてはいない。華族や財閥とは違い、平民である朝倉家にとって、洋式の大規模な宴を開く必要がなかったから、といわれている。

庭園は、崖線という地形を取り入れた回遊式庭園となっていて、多くの石灯籠などの添景物が配置されている。これらの石灯籠や庭石はこの時代の資産家の庭園にみられる大きなものが使われている。しかし、庭園につきものである池はない。この辺りの崖線からは湧水が出なかったのだろうか。

高低差のある庭には多くの木々とともに、四季の花も見られ、訪れたときは大きな躑躅が真っ赤な花を咲かせていた、モミジも多く、秋には紅葉も素晴らしいだろう。

附属屋(車庫)

土蔵

〇主屋内から






丸窓






〇庭園から
シャガが咲いていた
庭門

庭門

大きな石灯籠・庭石







大きな躑躅が真っ赤な花を咲かせていた

3.猿楽塚・猿楽神社

朝倉家の土地に隣接して、「猿楽塚」という古墳跡がある。その上に猿楽神社が建てられている。

古墳は67世紀の古墳時代後期のものとされ、猿楽塚と呼ばれていたことから、この辺りは「猿楽」という地名が付いている。この名称は、「我苦を去る」という意味から別名「去我苦塚」とつけられたともいう。

朝倉家は、渋谷村会議員をつとめた徳次郎以来、代々、渋谷金王八幡宮と氷川神社の参拝を常とする敬神家でもあったことから、この猿楽塚の上に「猿楽神社」を創建した。

「猿楽塚」前の鳥居

猿楽神社

猿楽神社

4.代官山ヒルサイドテラス

現在の旧朝倉家住宅は、ヒルサイドテラスに隣接している。もともと、ヒルサイドテラスの用地は朝倉家の用地であった。

朝倉家は、戦前はこの辺りの大地主であったが、第二次大戦後、所有していた土地の大部分を失い、本宅も相続税支払いのために売却を余儀なくされた。そこで、手元に残った土地を生かした不動産経営を検討し、当主は、大学の同窓生という縁から建築家・槇文彦に「代官山集合住宅計画」を依頼した。

当時、この地域は、第一種住居専用地区に指定されていたため、住宅以外の建物は建設できなかった。そこで槇は、一団地計画として用途規制緩和を申請し、これにより、ショップやレストランなど店舗と住居を併設する現在のようなヒルサイドテラスが実現した。

(参照):槇文彦と慶應義塾については

東京異空間165:慶應義塾大学三田キャンパス~建築とアート

マイケル・ケンナの写真展を観た後、近くにある「旧朝倉住宅」を見学してきました。実は、Googleマップで写真展の場所を検索していた時に、この旧朝倉住宅というのがあることを知りました。代官山という、おしゃれな街、高級住宅街のなかに、こうした大正時代の邸宅があり、また古墳まで残っているということに驚きました。

なお、マイケル・ケンナ展が開かれている会場は、ヒルサイドテラスのF棟の中にありました。

(参照):

東京異空間192:二つの写真展を観た~木村伊兵衛とマイケル・ケンナ

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