府中市美術館で開催されていた「江戸絵画 お絵かき教室」展を観てきました。(会期:5月7日まで)
府中市美術館は、板橋区立美術館と同様、江戸絵画をユニークな視点から捉えた企画展がシリーズで行われています。今回は、これまでの美術史の視点から作品を見る展覧会ではなく、「描く」という視点から江戸絵画を見るという企画です。
なお、府中市美術館へは、昨年暮、諏訪敦「眼窟裏の火事」展を観に行きました(東京異空間79、2023/1/15)。
1.江戸の画家はどうやって学んだか
展覧会では、江戸絵画を描くという視点から、実際に描くことを体験できるコーナーなどを設けていたが、江戸の画家は、どのように学んだかについて、次の4つの視点からみている。
(1)中国に学ぶ
古来から、中国の絵を輸入し、それを模範として学んできた。江戸時代には、儒教とともに、中国の文化が広まり、中国風の絵画を描くことが画家たちの大きな役割ともなった。
主な作品:伝徽宗(きそう)「狗子図」、森祖仙「双狗図」
(2)雪舟に学ぶ
室町時代の画僧、雪舟も中国絵画を学んでいるが、江戸時代には、狩野派をはじめとする画家たちにも広く浸透し、模写された。
主な作品:雪舟等楊「倣夏珪山水図」、雲谷等律「西湖図」
(3)応挙に学ぶ
応挙は、これまでの絵より格段に美しい写実的な絵を描き、多くの弟子たちが、また弟子以外も、応挙風の描き方を徹底的に真似た。その作風は、明治時代まで多くの画家の手本となった。
主な作品:円山応挙「雪中狗子図」、「鯉図」、長澤芦雪「鯉図」、岸駒「鯉図」、歌川国芳「坂田怪童丸」
(4)オランダ本に学ぶ
輸入された書物の挿絵、版画をみて、西洋絵画を真似て、自らの制作に反映させる画家も出てきた。
主な作品:司馬江漢「皮工図」「七里ガ浜図」、亜欧堂田善「墨堤観桜図」
こうした江戸絵画は、西洋絵画が正確なデッサンを基本としたのに対し、ともかくも、真似すること、つまり「模倣」が基本であった。そのため、多くの粉本が残されている。長谷川家(長谷川等伯の家系)に残る粉本が山のように積まれて展示されていた。江戸絵画の主流であった狩野派は、この粉本主義に陥り、しだいに画一的で創造性に乏しい作品になっていったとされる。
長澤芦雪<唐子遊図屏風>部分 |
長澤芦雪<唐子遊図屏風>部分 |
円山応挙<狗子図> |
歌川国芳<坂田怪童丸> |
2.お手本はいらないフリーダムな画家たち
それを踏まえてか、本展の最後は、「お手本はいらない」と題して、フリーダムな画家たちを紹介している。その代表が、三代将軍・徳川家光の「兎図」である。どうみても本物の兎には見えないが、今でいう、ゆるキャラ、かわいい、といった絵である。これも、府中美術館がかって発掘したものである。
これらのなかで、目を引いたのが、林十江の「唐人物図」である。林十江(はやしじっこう)という画家は、あまり知られていないのではないか。調べてみたら、江戸後期の南画家で水戸に生まれた。1777-1813(安永6〜文化10)年。 37歳没。十江という号のほか、十江狂人、風狂野郎、金眼鳥、水城俠客、艸巷販夫、印禅居士、懶惰山老など数多い 。
過去に開かれた林十江の展覧会を調べてみたら、やはり、板橋区立美術館で「江戸文化シリーズ第8回、風狂野郎 林十江」として1988年に開催されている。タイトルにも号の「風狂野郎」を用いていて目を引く。当然、企画したのは安村敏信氏であろう。安村氏の『江戸絵画の非常識』をひも解くと、「奇想派があった」という見出しがあり、林十江を奇想派に加えてほしいと書かれている。十江の身近な生き物を描いた作品として、鰻を真上から<双鰻図>は二匹の鰻を真上から描いたもの、<蜻蛉図>はオニヤンマを巨大に描いたものがある。人の意表を突くような大胆な構図、省略された勢いのある筆致で、自由奔放に生き生きと描いている。安村氏は「描くところの振幅の広い画家である」と述べている。
林十江 左:<木の葉天狗図>茨城県立歴史館蔵、右:<蜻蛉図> |
<双鰻図>東京国立博物館蔵 |
参考:
『江戸絵画の非常識』安村敏信 敬文社 2013年
先に「椿椿山」展を板橋区立美術館で観て(東京異空間100:板橋の文化を歩く2023/4/15)、その中でも安村敏信氏にふれたが、こちら府中市美術館の学芸員には、金子信久氏がいる。この方も江戸絵画の美術史家で、これまで、府中市美術館においてユニークな企画を行ってきている。今回も、先に挙げた画家、作品以外にも多くの画家、作品を展示してあり、見ごたえのある展覧会であった。
長澤芦雪<唐子遊図屏風>部分 |
館内 |
美術館・建物 |
美術館前の池・噴水 |
噴水 |
府中市美術館の企画展も見応えがありましたが、常設展にも見逃せないものがありました。とくに次のような明治期の洋画に目をひかれました。
高橋由一<墨水桜花輝耀の景>、青木繁・福田たね<逝く春>、五百城文哉<小金井の桜>、吉田博<御岳、奥の院>、五姓田義松<パリの風景>など。
いずれ、林十江の作品を集めた企画展も開いてほしいものです。
0 件のコメント:
コメントを投稿