「さすが!北斎 やるな!!国芳」 |
慶應義塾大学三田キャンパス内にある「慶應義塾ミュージアム・コモンズ」で開かれている北斎と国芳の展覧会に行ってきました。ここは、2021.4にオープンした、ミュージアムで、これまで早稲田大学の近くにあったセンチュリー・ミュージアムを引き継いでいます。
(センチュリー文化財団は、旺文社の創業者・赤尾好夫の美術コレクションをもとに1979年に設立された。)
今回の企画展は、北斎と国芳の浮世絵と新出の下絵が展示されています。これは、慶應義塾が所蔵する高橋誠一郎コレクションによるものです。規模は小さいながらも、北斎と国芳の魅力を感じる展覧会でした。
また、三田キャンパス内にある旧図書館、演説館などと、近くにある綱町三井倶楽部の建築もあわせて観てきました。
慶應義塾ミュージアム・コモンズ・入口 |
慶應義塾大学三田キャンパス・正門(南門) |
1.北斎と国芳
この展覧会は、慶應義塾が所蔵する高橋誠一郎の浮世絵コレクションの中から幕末の同時代に活躍した二人の絵師、葛飾北斎(1760-1849)と歌川国芳(1797-1861)の作品を選び、加えて、新出の下絵類を展示している。これらの作品から、二人の絵師の手慣れた筆さばき、ダイナミックな構図からエキセントリックな表現を観ることができる。そのことから、「さすが!北斎 やるな!!国芳」という企画展のタイトルが付けられている。
(高橋誠一郎の浮世絵コレクションは、福沢諭吉門下生で経済学者であった高橋誠一郎(1884-1982)が収集した浮世絵、約1500点が、慶應義塾に移譲された。)
二人の絵師の浮世絵が比べられる今回の展示をみて、それぞれに特徴があることに気づいた。北斎の特徴は、「動き」を的確にとらえていること。動きといっても、もちろん人物の動きもあるが、より瞬間的な動きを、いわば高速シャッターで写し撮ったように捉えている。たとえば、もっとも有名な<富嶽三十六景・神奈川沖浪裏>では、踊るようなダイナミックな波が砕ける瞬間を、また同じく<山下白雨>では、富士山の上空から俯瞰した強烈な稲妻が光る瞬間を描いている。<駿州江尻>では、旅人が傘を抑えて歩く姿に、持っているものが飛んでしまっている瞬間を描いて強風を表し、<江都駿河町三井見世略図>では、屋根の上から物を投げた瞬間を描いている。これら瞬間的な動きは、それまで誰も描いたことはなかっただろうし、描こうとも思いつかなかったのではないだろうか。天才絵師・北斎の真骨頂である。
<富嶽三十六景・神奈川沖浪裏> |
<山下白雨> |
<江都駿河町三井見世略図> |
いっぽう国芳の特徴は、「物語」を描くことにある。そこに、きわどい風刺や、くすぐるユーモアを込めている。たとえば<源頼光公舘土蜘作妖怪図>では、武将源頼光と四天王がくつろいでいるが、頼光の背後には土蜘蛛がそのおぞましい姿をあらわし、闇のなかに無数の魑魅魍魎が跋扈している図である。これは、表向きは土蜘蛛退治の物語を下敷きとしながらも、その実は時の天保の改革で、酷政を断行する為政者たちとそれに怨嗟の声をあげる庶民たちの姿を描いた、きわどい諷刺画となっている。また、山海愛度図会<はやくねかしたい>は、子供にお乳をやる婦人の姿だが、そのこころ、ここにあらず、というエロチックさを誘う物語を描く。<風流人形さるたひこ大神・うすめのみこと・あだちばゞ>では、出開帳で評判となった見世物である生人形を描く。老父がさるたひこ大神、赤い羽織の女性はうすめのみこと、妊婦を襲う老婆があだちばゞ、その背後から覗く観音の化身、じつはこの観音を守るため身代わりとなった実の娘であるという物語が込められている。また、<八代目石川団十郎死絵>では、男が鬼に腕をつかまれ連れ去られていく姿、それを悲しみ取り囲む女性たちを描く。死絵とは有名人が没した際に、訃報と追善を兼ねて制作された絵である。八代目市川團十郎は美貌で、とりわけ女性から人気のあった役者であったが、三十二歳の若さで自ら命を絶った。突然の死に戸惑い、別れを惜しむ表情が女性たちの顔に描かれる。
国芳は、こうした世情を笑い飛ばすような物語、いまでいえば芸能ニュース的な場面描いて江戸っ子の人気を得た。その奇想(エキセントリック)な絵は、今また人気となっている。
<源頼光公舘土蜘作妖怪図> |
山海愛度図会<はやくねかしたい> |
<風流人形さるたひこ大神・うすめのみこと・あだちばゞ> |
<八代目石川団十郎死絵> |
(画像は、高橋浮世絵コレクションより https://dcollections.lib.keio.ac.jp/ja/ukiyoe)
北斎と国芳という二人の天才絵師の作品を観て、北斎は「動き」しかも瞬間的な動きに、また、国芳は、風刺、ユーモアなどを込めた「物語」に特徴があると気づきました。それが、いま日本のアニメーション、そしてマンガにつながってきているとも思います。日本のアニメ・マンガは世界的に人気となって、日本文化の代表のようになっています。その源流が、この二人の絵師にあり、まさに本展のタイトル、「さすが!北斎 やるな!!国芳」ということでしょう。
続けて、慶應義塾の三田キャンパスにある歴史的建物などを観ていきたいと思います
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