2026年5月18日月曜日

東京異空間424:フォトコラージュ@岡上淑子

 

岡上淑子《夜間訪問》

東京国立近代美術館コレクション展の中に、岡上淑子(おかのうえとしこ)の作品がまとまって展示されていました。岡上の作品には魅かれるものがあります。これまでも拙ブログでとり上げましたが、あらためて岡上の歩みと作品をみていきます。

(参照):

東京異空間372:「装いの翼」@ちひろ美術館とレトロな喫茶店

東京異空間309MOMAT コレクション<女性像>@東京国立近代美術館

東京異空間245:美術展を巡るⅣ-4~MOMATコレクション@東京国立近代美術館

1.岡上淑子の歩み

(1)1950年代まで

1928年、高知県高知市に生まれ、 3歳のとき、農林省に勤める父親の転勤に伴い東京へ転居。

戦時下に女学校時代を過ごした後、デザイナーを志して文化学院デザイン科へ進学。

東洋永和女学校(現・東洋英和女学院)の制服を着た淑子

1950年、22歳のとき、文化学院デザイン科に在学していた、美術の授業で「ちぎり絵(貼り絵)」の課題が出された。そのときに、写真や印刷物を切り貼りするコラージュであれば、絵筆を持たなくても自分の頭の中にある「夢」や「空想の光景」を表現できると気づいたことが、制作を続けた大きな動機となったという。

コラージュには、進駐軍が置いていった『LIFE』、『VOGUE』、『『Harper's BAZAAR』、『Seventeen』などの当時の最先端を行く海外の高級ファッション雑誌を古本屋で購入 し、切り抜き素材として使用した。戦時中に青春時代を過ごした彼女にとって、戦後の日本に流れ込んできた欧米の華やかなシネマやモードは憧れの対象であった。

こうした作品により、美術評論家の瀧口修造にその才能を見出され、1953年に個展を開催して華々しくデビューした。その際に瀧口は、「岡上さんは画家ではありません。若いお嬢さんです。独りでこつこつグラフ雑誌を切抜き、夢そのものを描きました」という推薦文を寄せ、彼女を「現代版の不思議の国のアリス」と絶賛した。このとき岡上は25歳であった。

そして、1957年頃までに約140点におよぶ作品を残したが、結婚や出産を機に、わずか7年ほどで美術界から姿を消し、以降は故郷の高知で暮らすようになる。

(2)2000年頃から

しかし、忘れられていた岡上が、2000年頃から美術界で急速に再評価の機運が高まり、幻のコラージュ作家として再び脚光を浴びることとなった。その主な経緯は次のようである。

1996年、 目黒区美術館で開催された、戦後の不遇な美術や動向に光を当てる展覧会「1953年ライトアップ 新しい戦後美術像が見えてきた」に岡上の作品が出品された。また、東京都写真美術館の専門調査員・金子隆一氏らによって作品が再発見され、彼女の残したフォトコラージュの極めて高い芸術性と独自性が再評価された。

2000年に東京(第一生命南ギャラリー)で44年ぶりとなる個展「岡上淑子フォト・コラージュ:夢のしずく」 が開催された。

その後、2018年に高知県立美術館、2019年に東京都庭園美術館で初の大規模な回顧展「岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」が開催された。

2021年にはメトロポリタン美術館で開催された展覧会に岡本太郎らと並び出品される。さらにニューヨーク近代美術館やヒューストン美術館をはじめとする世界の主要美術館に作品がコレクションされ、国際的な評価が広がった。

2.作品の特徴

岡上のフォトコラージュ作品には、1950年代という戦後独特の時代背景を映し出した、つぎのような特徴がみられる。

(1)「先端モードの起用」:作品には、当時の日本にはまだ珍しかった、きらびやかなドレスを身にまとった洋装の女性が頻繁に登場する。

(2)「背景に広がる憂い」:華麗な衣服をまとう女性たちが配置されるのは、廃墟や荒涼とした砂漠、剥き出しの自然、あるいは不穏な空といった、戦後の記憶や心の傷を想起させる荒々しい風景である。

(3)「美と破壊の調和」:時代の最先端を行くモードファッションの美しさと、戦後の不穏で憂いを帯びた景色が、見事なコントラストを描きながら融合している。

(4)「顔の置き換え(異形化)」:女性の顔が動物、昆虫、植物、建築物、あるいは別の無機物などに置き換えられているケースが多く見られる。

(5)「社会的抑圧へのメッセージ」:顔を奪われたり、鳥籠に閉じ込められたりしている女性の描写は、当時の社会制度やジェンダー観における「女性への抑圧」を見るものに強く印象づける。

(6)「自由への渇望」:同時に、そこから飛び立とうとする鳥や翼のモチーフを通じて、束縛からの解放や自由への情熱が繊細かつ大胆に描き出されている。

岡上のシュールで不思議なコラージュから、東京国立近代美術館のほかにも、今まで拙ブログに取り上げた作品を並べてみた。

《夜間訪問》c.1952 




《無情な光景c.1952 





《窓辺》 c.1953 





《怠惰な恋人1952 





《ドライブ》 1951 





《人形師》 1951 





《脚》 1952 




《彷徨》 1956



《廃墟の旋律》1951


 《長い一日》 1951



《地球の果て》1952




《海のレダ》1952

岡上は、この作品を一番のお気に入りに挙げている。その主な理由として、「女性の順応性と、それに伴う苦悩」を表現したかったからとしている。

タイトルの「レダ」はギリシャ神話に登場する女性で、白鳥に変身したゼウスに愛される物語である。大海原を引き裂くように水面を猛スピードで進む白鳥と女性の姿を描きながら、女性が別のもの、あるいは新しい状況に変容していく姿を、逆説的でシュールな構成で作り出している。



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