|
「空の発見」 |
|
香月泰男《青の太陽》1969年
|
「空の発見」という美術展を観てきました。空を描くといわれたら、ほとんどの人が青空に白い雲を描くのではないでしょうか。しかし、こうした空が描かれるのは、日本では近世後期に、西洋絵画の影響があってからということです。
今回の美術展は、作品そのものの素晴らしさを鑑賞するといった展示ではなく、空がどのように描かれてきたか、作品を通して観るということです。こうしたいわば企画力を魅せる展覧会というのは初めてだと思います。タイトルにあるように「空の発見」の美術史をたどってみます。
|
ホンマタカシ《TOKYO SUBURBIA東京郊外-幕張ベイタウン》1995-6年 |
|
亀井竹二郎《蒲原驛 富士坂》ー懐古東海道五十三驛眞景より1877年 |
1.「空の発見」
日本の美術作品において、例えば「洛中洛外図」などでは俯瞰した視線に金雲がたなびいているが、青空や白い雲は描かれていない。浮世絵などでは、青い線をぼかして空を表現しているが、これも抽象的、概念的に描かれたものである。司馬江漢などは西洋画の影響を受けて、青い空のある風景を描くようになる。本格的に空が描かれてくるようになるのは、近代に西洋画が入ってきて写実的に描く技法を取り入れるとともに、科学的な気象観測の知識も得てからという。岸田劉生など、西洋画を学んだ画家たちが青い空を写実的に描くようになる。さらには、萬鉄五郎になると、若き自画像に緑とオレンジの雲を描き込み、自らの心象や夢想を表現する。
そもそも「空」(そら)は(くう)とも読めるように、神の世界である「天」でも、人間のいる「地」でもない、曖昧な場所であり、
絵のなかの視点はいつもは地上に向けられ、空そのものに焦点があたることは少なかった。ところが、空がクローズアップされるとき、それは地上で異変が起こったサインでもあった。地上で震災や戦災が起こり、廃墟に広がる空、戦地で見上げた空などが、重い存在感で描かれる。
1923年の関東大震災のとき、池田遙邨は《災禍の跡》を描く。震災の悲惨さの表象としての巨大な空を背景に焼け跡を歩く4人の家族。
この絵は、日本美術界ではあまりに異質な表現として当時は受入れられなかったという。
|
池田遙邨《災禍の跡》1924年 |
1945年8月15日、終戦の日は雲一つない晴天だったという証言が多い。写真家・濱谷浩は、新潟県高田市で、その終戦の日に太陽を撮影している。
|
濱谷浩《終戦の日に太陽》1945年 |
「空」の表現の変遷を通じて、見えているけど、見えていない「空」に対する意識、価値観までを浮き彫りにした展覧会の企画力に驚嘆した。
この展覧会で、初めて知る名、亀井竹次郎(1857-1879
)。亀井は忘れられた画家といわれ、その生涯はよくわかっていないという。図録によれば、横山松三郎(1838-1884)に師事したという。横山は明治初期の写真家でもあり洋画家でもあり、亀井は洋画の技法を学んだ。
展示されていた作品は、画面の半分以上に空が描かれている。それも青空だけでなく、朝焼け、夕焼けの空の景色である。江戸の浮世絵に描かれた東海道五十三次の景色とは違う、近代の東海道五十三驛の「眞景」である。
(参考):
図録『空の発見』渋谷区立松涛美術館 編 2024年
図録『亀井竹次郎ー懐古東海道五十三驛眞景』郡山市立美術館 1997年
2.西洋にみる「雲」
展覧会は日本美術における「空の発見」に視点が置かれているが、これとは別に、ネットでみた美術関係の記事に『西洋アートに描かれる「雲」』というのがあり、興味深い内容であった。
(1)中世
西洋中世における宗教画においては、雲に「神性」が込められているという。天上の世界と地上の世界をつなぐものとして、「雲」が芸術に活用された。
聖堂のモザイクの例を見てみると、天から降りてくる存在のイエスの周りに、雲のような光のようなものが浮かんで描かれている。
(2)ルネサンス
レオナルド・ダ・ヴィンチは、雲に関する研究記録を残しているが、雲に限らず、ルネッサンスに芽生えた遠近法や写実主義への取り組みは、自然への徹底的な観察のうえに成り立っていた。
(3)ロマン主義
イギリス人ロマン主義画家ウィリアム・ターナー(1775-1851年)は、雲に魅了され、雲の表現を追求した。
ターナー作品の幻想的な印象は、朝陽や夕陽に照らされた豊かな雲の色彩に支えられている。
一方、雲は脅威を表現する際にも用いられた。
ターナーの例のように、ロマン主義の画家はよりドラマチックな場面を構成するために、雲の力を借りた。
(4)印象派
ゴッホは作中にさまざまな雲を描き、それらは作品ごとに大きく異なる印象を与えている。いわゆる「ふわふわした雲」ではなく、力強く、まるで自らの意思を持っているかのような雲。近づいてみると、ぽってりと塗られた絵具の渦で描かれている。画家にとって雲の表現は単なる背景の一部ではなく、作品の印象を決める
ものである。
時代とともに変化していった雲の表現には、確実に画家の思想や狙いが反映されているという。
(参考):
「イロハニアート」(2024.11.8)
3.渋谷区立松濤美術館
渋谷区立松濤美術館は、白井晟一(しらい
せいいち1905-1983)の設計による。
美術館全体がアートとなっている。曲線の美しさにこだわった螺旋階段
、ぽっかりと空に向かっている中央の吹き抜け、地下には噴水が光に照らされている。
展示作品は撮影不可なので、アートである建物を撮ってきた。また、美術館近くで、ブーゲンビリアの花が可愛らしかった。
|
ブーゲンビリアの花 |
|
ブーゲンビリアの花 |
|
ブーゲンビリアの花 |
(参照):